精子に影響を与える因子をまとめて記載します。
その根拠、詳細を後述していきます。

避けるべき生活習慣
喫煙 (従来式、加熱式)  
過度な飲酒
太りすぎ (BMIは25以下が好ましい)
陰嚢の過度な圧迫 (長時間の自転車、ぴっちりな下着)
陰嚢の温め過ぎ (長時間のサウナ、入浴 、膝上でのパソコン作業)
過度な運動 (アスリート並にはやらない方がよい)
過度な加工食品、添加物、乳製品の摂取 (医学的根拠はまだ薄いが影響否定できない)
影響がある薬剤、医療行為
 (AGA治療薬、多量の解熱鎮痛剤、胃薬の一部(PPI)、抗がん剤の一部(特にアルキル化剤)、放射線治療 )

推奨される生活習慣
適切な体格を保つ  
栄養バランスのとれた食生活
適切な睡眠

喫煙(従来式、加熱式たばこ)と精子の関係 

・タバコ(従来式)は燃焼により約 4,000 種類の化合物が生成され、喫煙者はニコチン、一酸化炭素、カドミウム、その他の変異原性化合物を含む多くの毒素を吸い込みます。これらはすべて男性の生殖細胞に悪影響を与える可能性があり、精子ミトコンドリア活性を低下させる、精子DNA構造に損傷を与える可能性があります。
(Fertility and Sterility2012 Dec;98(6):1428-1431)

・喫煙と不妊の関係については米国生殖医学会(ASRM)より見解がだされています。
米国の生殖医療専門医が集まって出している見解になりますので、医学的根拠は非常に強い内容です。
  精子運動率低下、精子数低下、奇形率上昇に関与する。
  たばこの本数に比例して、精液所見は低下する。

                              (Fertil Steril 2018; 110: 611)

・WHOがまとめた、精子と喫煙との関係について総対象者数5865人、20の論文を対象としてメタ解析(複数の論文のまとめ・考察)になります。
  喫煙者は非喫煙者と比較し、精子濃度低下、運動率低下、精液量低下、正常形態率低下が認められた。
  中程度からヘビースモーカーほど影響が強く観察された。また、本数が多いほど影響が強く観察された。
  喫煙者は 精子濃度 8.92百万/ml 減少
        運動率 4.78% 低下
        精液量 0.21ml 減少 
        正常形態率 1.37% 低下
                            (Eur Urol. 2016 Oct;70(4):635-645.)

・ヘビースモーカーは19% 平均精子濃度が低下し、総精子濃度が 29% 低下した。
                            (Ramlau-Hansen et al., 2007)


ちなみに受動喫煙も、喫煙者と同等のリスクをもつといわれています。

電子たばこ なら大丈夫なのか?
※ここの記事では、加熱式たばこ(IQOS)は、広義の電子タバコに含まれるものとして記載しています。
加熱式たばこの煙にも、ニコチンや発がん性物質が含まれているといわれています。
電子たばこ、加熱式たばこについての研究結果もいくつかでてきています。

・電子タバコでも従来のタバコ同様に総精子数が顕著に低下していた。
喫煙無 1億4300万 VS 電子タバコ 9100万   
この低下度合いは、従来式喫煙よりも優位差は検討していないものの強い低下する結果だった。
                      (Hum Reprod 2020. Stine Agergaard Holmboe)

・動物実験ではありますが、加熱式たばこ(IQOS)に暴露することでマウスの精子がどう変化するか観察した。
胎児期にIQOSに暴露されて産まれた雄マウスは精巣形態の変化(精細管細胞損傷、空胞化)と精子形成の減少を優位に認めた。
                              (Biol Pharm Bull. 2020)

喫煙による精子への影響
精子のすべてのパラメーターを低下させる。
本数に依存して、多いほど悪影響は強くでる。
加熱式たばこでも悪影響であることはほぼ間違いないと思われる。

体重と精子の関係

肥満になることで精液所見が不良となる報告が多数出ていますので、いくつか紹介していきます。

米国468名の不妊カップル男性を対象に前方指摘に追跡研究を行った。
精液量BMIおよび腹囲の上昇に伴い有意な負の相関、
総精子数腹囲と有意な負の相関を示しました。
精子濃度、運動率、正常精子形態、DFI(精子DNA断片化率)は、BMIおよび腹囲との関連を認めなかった。
                               (Hum Reprod 2014; 29: 193)

不妊クリニックを受診した450名の男性の精液所見とBMI、腹囲を調査した。
BMI 25~29.9(肥満度1)は、 精子直進運動率と有意な負の相関、 不動精子率と有意な正の相関を認めた。
BMI 30以上(肥満度2以上)は、 精液量、精子濃度、運動精子数と有意な負の相関を認めました。
腹囲102 cm以上(中心性肥満)は、 精子濃度、運動精子数と有意な負の相関を認めました。
                               (Hum Reprod 2012; 27: 2365)

肥満であることにより、 無精子症と乏精子症の発生率が上昇した。
                               (Sermondade et al., 2013)

肥満による精子への影響
肥満により精子所見は悪化する可能性が高い。
肥満段階があがることでより悪化する可能性が高い。
BMI : 25以下 を目標にすると良いと思われます。

適切な禁欲期間、射精間隔について

禁欲期間についての報告をみると
・ 禁欲期間が約5日を超えると精液所見は不良となる。
・ 2日あければ精液所見は十分元通りになる。
個人によって、かつその時の健康状態、生活状態によっても適切な禁欲期間は変わってくる可能性があります。
絶対に何日でなければいけないということはないと思いますので、重要な日取り(人工授精当日、採卵当日)にむけて
2~5日ほどあけられるようにコントロールするとよいと思われます。