精液検査を受けて、状態があまりよくないといわれると、強いショックを受けてしまうのではないでしょうか。
不妊診療の際に、悪い結果を受けて酷く落ち込んでしまうのは、女性よりも男性の方が多い印象をもちます。
自然妊娠は難しいなど、様々なことを医療者から言われたかもしれませんが、
現代の不妊治療を駆使すれば、つまるところ生存精子1匹が獲得できれば妊娠の希望は持てる時代になりました。
あくまでも不妊の一因が男性側に見つかったというだけですので、二人の目指すゴールに向けて
必要なことを前向きに進めていきましょう。

精液改善のためにできることは、下記の3つとなります。
① 泌尿器科的アプローチ  
② 生活習慣改善
③ 男性向けサプリメントの使用

男性不妊の基礎知識

不妊症の半分は男性不妊が関与しているといわれており、
女性のみでなく男性も不妊治療に積極的にかかわるべきといわれています。

それでは、男性不妊の中での原因内訳をみていくと、
1位 造精機能障害 (精液検査が不良、精子の質が悪いなど) 約82% 
2位 性機能障害 (勃起不全、射精障害など) 約14% 
3位 精路通過障害 (精管閉塞など) 約4%

男性不妊の原因のほとんどは、精子の数・動きの低下、機能障害である造精機能障害が占めている。

近年では2位の性機能障害、とくに勃起不全(ED)の方が増えてきていると報告されています。
後述の生活習慣の改善は主に造精機能障害改善のための記事ではありますが、
ED改善としてもリンクする部分は多いので参考にして下さい。
即効性を希望されている場合は、泌尿器科でED薬の使用を検討するとよいと思います。


造精機能障害の原因

いわゆる、精子の数が少ない、精子の動きが悪い状態のことを造精機能障害といいます。
ほとんどの男性は、なんとか精子を良くしたい、正常に戻したいと思うでしょう。
ただ残念ながら、精子を良くするための医療は未開拓に近い分野であり、不透明な部分が多いと知っておいてください。

平成27年厚生省の調査において、造精機能障害の原因は
1位 特発性(原因不明) 約51% 
2位 精索静脈瘤 約36% 

結果としては、半分以上が原因不明でした。
原因が不明であれば、当然改善する手段も不明であろうことは理解しやすいかと思います。

男性不妊診察  ~泌尿器科 医療介入~

精子が不良となった原因がわかれば、医療的な介入で精子の改善が望めます。
医療介入で改善が見込めるパターンは、主に下記①~③が認められた場合です。

① 精索静脈瘤   
精巣周囲の血管が拡張し、精巣暖められてめられてしまうことで精子所見が不良となると推測されている。
造精機能障害の病因としては最も高頻度。 大きな病変があるほど、除去後に改善率が高い。 
基本手術療法を行います。

② ホルモンバランス異常 
高PRL血症や、低ゴナドトロピン(LH、FSH)血症などが主に精子所見を不良にする要因になりえます。
その場合、薬物療法を行います。

③ 精巣腫瘍
癌を患っている状態であると精子所見は不良となります。
精子形成に悪影響を及ぼす悪性腫瘍としては、特に精巣腫瘍が代表的です。
そのため、精子所見不良精査のための全身検索としては、精巣腫瘍を否定することを行います。
睾丸などに痛みなどの自覚症状がない場合、これらの病気が見つかる可能性は非常に低いです。
念のため否定しておくことが重要です。

これらの存在を見つけ、改善させることが男性不妊の観点で医療的にできることとなります。
採血、触診、超音波検査などで精査をしていくことになります。

精査については、男性不妊症を扱うことができる泌尿器科医に診てもらうことが重要です。

茨城県内で男性不妊症を専門的に診てくれる施設は多くはないので、
推奨される施設を挙げていきます。
① 筑波学園病院 (つくば市)
② もりやファミリークリニック (守谷市)
③ 中央泌尿器科クリニック (水戸市)
※上記以外にも対応可能施設はあると思います。 
(もし県内で上記以外で男性不妊診療可能施設がありましたら教えていただければ幸いです。)

男性不妊診察を受けられた方へ

専門施設で精査を受けられた方は、結果のフィードバックを不妊治療施設へ行ってください。
① 精子所見悪化につながる病気が認められたか否か
② 何かしらの治療手段が提案されたか否か
この2点を報告下さい。

精液検査が悪い場合、次世代へ影響するのか 

精子が不良な状態で不妊治療をした結果、次世代への影響について心配されるカップルもいると思いますので、
そこについて論文報告を解説していきます。
1. 不妊治療後に産まれた男児の精液所見についての報告   (Fertil Steril 2022; 118: 671(デンマーク)
男性1058名の精液所見について、
不妊治療を行った両親から産まれた男性 vs 不妊治療を行っていない両親から産まれた男性
で比較したところ 両群で差がなかった。

2. ART治療により産まれた男児の精液所見についての報告   (Fertil Steril 2022; 117: 727(オーストラリア))
ART治療で産まれた男児120名 vs 非ART治療で産まれた男児356名 
精液検査とホルモン検査の結果を比較した。
精子濃度や精子運動率、重度乏精子症(精子濃度500万/mL)の割合など、多くの項目で2群間に有意差を認めませんでした。 したがって、男性の精子状態は、男児には遺伝しないとしています。

※ 無精子症やcryptoozospermia(無精子症に近い状態、精液中に数匹しかいない状態)においては、一定確率で遺伝子変異が原因となります。 その場合は、産まれてきた男児も同様に男性不妊症を呈することがわかっています。

(無精子症や極重症な乏精子症を除けば、)
男性不妊症の形質は次世代の子どもへは受け継がれないと考えられる