フィナステリド(プロペシアなど)、デュタステリド(ザガーロ、アボルブなど)は
AGA(Androgenetic Alopecia)=男性型脱毛症に対して効果が実証されている治療薬であり薄毛で悩む人にとっては、とても良い薬であると思います。

しかし、造精機能障害を初めとして様々な副作用も報告されています。
今後、妊娠を目指すカップルにおいては、状況を悪化させる可能性が高いので
使用見送り(妊活終了以降)、中断をお勧めしたい薬剤でもあります。
いくつかの論文報告をもとに、理由などを掲載していきます。

このページのまとめ

妊娠を目指すカップルは、AGA薬使用は控えましょう。

AGA治療薬 育毛への効果・副作用

AGA治療薬は5α-還元酵素阻害薬で、元々は前立腺肥大症に対する薬剤として開発されました。
5α-還元酵素は体内に存在する代謝酵素であり、Ⅰ型、Ⅱ型の2種類があり存在部位が異なります。
この酵素は、テストステロン(T)をジヒドロテストステロン(DHT)へ変換する酵素であり、 この酵素活性を阻害することによりDHTが産生されずらくなります。 DHTは、頭皮の男性ホルモンレセプターと結合し、脱毛を加速させる働きがあります。
プロペシアは5α-還元酵素Ⅱを阻害する薬剤でDHTを70%減少させ、
アボルブは5α-還元酵素Ⅰ、Ⅱを阻害する薬剤でDHTを90%減少させるとされています。
このように、5α-還元酵素阻害薬はDHTを低下させることで育毛への効果が期待されます。

しかし、その他にも5α-還元酵素阻害薬には
・プロゲステロン(P)をジヒドロプロゲステロン(DHP)への変換
・デオキシコルチコステロン(DOC)をジヒドロデオキシコルチコステロン(DHDOC)への変換
上記も同時に阻害してしまいます。
これらの作用ももつことで、下記のような副作用が報告されています。
                      (Fertil Steril 2020 / Skin Appendage Disord. 2017)

5α-還元酵素阻害薬の副作用
精子形成低下 男性性機能低下(勃起不全、性欲減退、射精障害、陰茎縮小)
女性化乳房 筋委縮 疲労感 乾燥肌 抑うつ 不安 認知障害 自殺企図 など

AGA治療薬 精子への影響

5α-還元酵素Ⅱ型欠損症では、乏精子症や無精子症となり、男性不妊症を呈する。
これは、薬剤を使用した方が対象ではなく、元々5α-還元酵素がうまく働かない方を対象に精液を観察したところ、精子数が少ない、もしくは1匹も精子が確認できない無精子症を呈していたという報告です。
                              (J Pediatr Urol 2023)

男性不妊外来に受診した男性で、フィナステリドを使用している方27名を対象にした研究。
平均1.04mg/日を57.4ヶ月使用していた。
フィナステリド投薬を中止したところ、精子数(濃度)は平均で11.6倍まで改善し、精子数が改善しなかった方はいなかった。 特に、高度乏精子症(500万/mL未満)の57%の人たちは、フィナステリド中止により1500万/mL以上まで改善した。精子運動率、奇形率は投薬中止後で変化はなかった。  
                              (Fertil Steril 2013)

99名の健康男性(18~55歳)に、アボルブとプロペシアを使用したRCT研究。
(この論文が3編の報告の中で最も医学的根拠の高い報告です。)
高容量アボルブ群33名、高容量プロペシア群34名、プラセボ群(=偽薬使用) 32名を1年間観察を行った。
総精子数:アボルブとプロペシア投与中26週で有意に減少(29%減 vs 34%減)した。
    減少傾向は見られた有意差がみられなかった、投与時期もあった。
    薬剤投与群の約5%では、総精子数が投与前の10%未満にまで低下しましたが、投与後には回復しました。
精液濃度:両群とも有意な減少はなかった。
精子運動率:全期間を通じ両群とも有意に低下した。
精液量:投与52週での精液量は、アボルブ群で有意に低下(30%減)したが、プロペシア群では14%減と有意な減少とはいえなかった。
                               (JCEM 2007)

AGA治療薬(5α-還元酵素阻害薬) 使用による精液への影響
総精子数、運動率は明らかに低下する。
数%の方々では、顕著に低下してしまう危険性がある。

私の臨床的な経験でも、AGA治療薬を使用していて、精液所見が正常範囲にある男性はあまり見受けないです。
明らかに精子には悪いと考えた方がよいでしょう。
薄毛対策をとるか、妊娠率をとるか という判断になりますが、
AGA薬を中止してから、精子が改善するまでに時間を要する場合もありますので
妊娠したいのであればなるべく遠ざけた方が良いと思います。

AGA治療薬 その他の副作用

・フィナステリド、デュタステリドにより勃起不全、性欲減退が認められた。
                            (J Sex Med 2011)

・育毛の目的でフィナステリドを使用した71名の健常男性(21~46歳)の性機能を調査した。
投与中に性欲減退94%、勃起障害92%、オルガズム低下69% の割合でを認めた。
性交渉頻度の減少をきたした。
フィナステリド服用(平均28ヶ月)後、 投与中止した後も副作用は平均40ヶ月持続した。

・フィナステリドを使用した男性型脱毛症の健常男性で、服用中止後長期間性機能低下が持続する方61名を対象にうつ症状について調査を行った。対照群は、男性型脱毛症はあるがフィナステリドを使用していない男性とした。
うつスコア(BDI-II)は、対照群と比較しフィナステリド使用群で有意に高く 、自殺企図も対照群(3%)と比べフィナステリド使用群(44%)で有意に高くなっていた。
                              (J Clin Psychiatry 2012)

・フィナステリドおよびデュタステリドの性機能に及ぼす影響について5つの論文報告をまとめた。
勃起障害(5~9%)、性欲減退、オルガズム低下を認め、
また性機能低下は自尊心低下、QOL低下、親しい人間関係の維持の低下に結びついた。
また抑うつ症状、憂うつなどの精神症状を誘引すると考えられる。
                               (J Sex Med 2013) 

AGA治療薬(5α-還元酵素阻害薬) により下記のような副作用を認めることがある。
男性性機能低下: 勃起不全 性欲減退など
精神的な影響: うつ症状 疲労感 認知障害 自殺企図 など

AGA治療薬使用においては、処方医師とよく相談の上ご使用下さい。