この項は、主に2019年にアメリカ産婦人科学会(ACOG)とアメリカ母体胎児医学会(SMFM)が共同で作成したガイドライン を参考に記事作成をしております。
https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/obstetric-care-consensus/articles/2019/01/interpregnancy-care

インタープレグナント期(産後から次の妊娠までの時期)は、妊娠中に発生した合併症や医学的問題に対処し、女性の心身の健康状態を評価、最適化するよい機会とされています。この期間を適切に過ごすことは、次の妊娠開始時の母体の健康状態の改善、ひいては乳児の健康状態の改善につながります。

妊娠間隔=分娩してから次に妊娠するまでの期間
分娩間隔=分娩してから次に分娩するまでの期間

次の妊娠までに整えるべき事とは

次の妊娠に向けては、妊娠率のことだけを考えればよいのではなく、
産後間もない新生児のこと、次の妊娠時母児の安全性など様々なことを考慮して決めなければいけません。

米国ではインタープレグナント期に、下記1~5を行うよう推奨しています。
その内容は抽象的かつ日本の現状とそぐわない面もあるため、
日本の状況を加味して具体的に行うべき事を、 以下に記載していきます。

1. 妊娠、出産時までに合併症があれば、それによる母体への将来の影響、妊娠時の母児への影響についての情報提供と、適切なフォローアップケアについて
  妊娠中にアクシデントがあった方は、それによる今後の疾病発症のリスク(例:妊娠糖尿病を発症した場合は、今後糖尿病を発症するリスクが高くなるなど)を把握することも大事です。また、次に妊娠をした際に母児にどのようなリスクがあるのか(例:常位胎盤早期剝離が起きた場合は、次回妊娠時にも再発しやすく、母児の双方にとってリスクとなる。)や、そのリスクを下げるためにできることを把握しましょう(例:帝王切開分娩後は、次回妊娠が早すぎると子宮破裂のリスクを上げてしまうため妊娠間隔を空けるべき。推奨される妊娠間隔は分娩した施設で確認しましょう。)

2. 次の妊娠時期の検討、それまでの避妊方法や、その後の不妊治療内容の検討
  前回の妊娠経過から推奨される妊娠間隔(帝王切開分娩なら少し期間を空ける等)と、次の妊娠への見通し(前回の妊娠より時間がかかることが多い)等から、カップル毎にいつまで避妊をし、いつから不妊治療をどのような内容で行うかを検討する。
次の妊娠への見通しはカップルにより大きく異なるので、後述する内容をお読みいただくこと、迷う場合は不妊治療施設で相談をするとよいでしょう。

3.母体の健康においては、産後うつ病のチェック、必要な予防接種の確認、持病があれば管理と健康状態の最適化
  妊娠、出産、産後子育てと環境が目まぐるしく変化します。
 精神的に疲れてしまい産後うつ病を発症する方も少なくありません。
 心を整えてから次の妊娠に臨むことも重要でしょう。
 身体的にも何かしらの病気があれば、妊娠許可が出るまでは治療に専念しましょう。

4.母乳育児による、母児の健康についての情報提供
  次の妊娠を早期に臨む場合、さらに一段階前から断乳する必要があります。
 女性の年齢や、前回の不妊治療の経過から、次の妊娠までの道のりが険しいと予想される場合は、早めに不妊治療を開始することのメリットも大きいと思われます。
 しかし、産後一定期間を母乳で育児をすることで得られる、新生児と母体へのメリットもあると考えられています。断乳を超早期に行うことのデメリットを理解した上で、不妊治療開始時期を検討しましょう。
 詳細は後述します。

5.産後ケアチームによる育成支援
  米国ではガイドライン上、積極的な産後ケアを推奨していますが、実際は地域や収入などにより受ける産後ケアの内容はまちまちのようです。それでも日本よりは、望めば手厚い産後ケアを受けやすい状況にあるようです。
 一方、日本では手厚い産後ケアを受けられる施設、地域は少ないのが現状です。育児中の不安がたまったり、支援を十分に受けられないと、行き詰ってしまうこともあるでしょう。家族や友人を頼ったり、自治体が手助けしてくれることもありますので、周囲に助けを求めることも非常に大事です。(つくば市在住の方は、市役所HPから面接の予約相談もできるようですので、必要な方は調べてみて下さい。)

簡単にまとめますと、上記の内容になります。
次に医学的根拠や具体的な内容を付け加えて掲載していきます。

適切な妊娠間隔は? ~次の妊娠までにすべきこと~

下記に詳細をのせますが、長くなるので、まとめを記載します。
見返すときにご利用ください。

・妊娠間隔は、少なくとも6ヶ月以上が推奨される。
・帝王切開後であれば、妊娠間隔は担当医の指示に従う(少なくとも6~12ヶ月)
・産後早期は妊娠率が低下する。
・産後早期の妊娠は、周産期アクシデントの発生率が高まる
・産後女性は1割以上がうつ状態に。早期対応が重要!
・持病は治してから、もしくは落ち着いてから
・断乳が必要

出産直後は妊娠率が低下するの?

出産直後は妊娠率が低下するのでしょうか、そしてどの程度時間が経てば妊娠率は通常に戻るのでしょうか。これについてはNorth American Prospective Cohortという米国、カナダの研究を参考に説明します。    (Willis. Fertility & Sterility, 2021)
この研究では、北米の妊娠計画中の女性1,489名を対象に、出産から次の妊娠までの間隔と自然妊娠率の関連性について調べています。結果は下記のようになっています。

産後期間妊娠率備考
<12ヶ月0.89(0.77–1.04)妊娠率やや低めだが
有意差なし
12–23ヶ月1.00標準期間とする
24–47ヶ月1.06(0.91–1.23)妊娠率高めだが
有意差なし
≥48ヶ月0.81(0.62–1.05)妊娠率低めだが
有意差なし

産後から1-2年での妊娠率を “1” としたときの、前後の期間での妊娠率の変化として、
産直後から1年まではやや妊娠率が低い傾向がありました。
出産から4年以上経つと妊娠率が低くなる結果は年齢のせいでしょう。
ただし、これらの妊娠率低下は統計上有意差は出ていませんので、ほぼ変わらないという見方もできます。
またこの研究は、妊娠率に関与する断乳時期については加味されていないため、
産後1年以内は授乳している割合が高いと推測され、妊娠率が低めなのは断乳からの期間が短いためという面はあるでしょう。
他にも、不妊治療ではなく自然妊娠の確率であることが、解釈における注意点としてあげられます。
妊娠率の観点で、産後もしくは断乳から何ヶ月あけたら、不妊治療を開始したらよいのかについて、明確に答えとなる研究は現時点ではなされていないようです。
結論として、産後半年から1年以内はやや下がる恐れがあるが、大きくは変わらないと予想されます。

産後早めの妊娠は危険?

18ヶ月未満の再妊娠におけるリスクとベネフィットについて知ることが推奨されています。
米国の観察研究のほとんどの報告において、
妊娠間隔が6ヶ月未満の場合、次の妊娠中における有害事象のリスクがより顕著になることが報告されています。

・1966~2017年の高所得国での報告のシステマティックレビュー。
妊娠間隔が6ヶ月未満では早産、在胎週数に対する過小出生児、乳児死亡のリスクが有意に上昇(調整オッズ比≧1.20)した。
妊娠間隔が6〜11ヶ月、12〜17ヶ月ではリスクは低かった。
6ヶ月未満の場合は影響が大きい。 (Yumei Wang. . Obstetrics and Gynecology 2022;9)

・広範囲なメタ分析によると、妊娠間隔が6ヶ月未満であると下記のようにリスクが上昇した。 (OR=オッズ比=リスクが何倍になるかの指標)
早産:OR1.49        在胎週数に対する過小出生児:OR 1.14
極低出生体重児:OR 1.82   低出生体重児:OR 1.33
新生児死亡:OR 1.60     新生児入院:OR 1.26
先天異常:OR 1.10         
妊娠間隔が6ヶ月未満である場合の影響は、周産期への負の影響が明らかである。
                  (Yumei Wang. Frontiers in Medicine 2022)

・妊娠間隔が18ヶ月未満の場合は、
早産、低出生体重児、在胎週数に対する過小出生児、新生児集中治療室入院、
乳児死亡リスクの上昇、妊娠高血圧症候群リスクの上昇など、
いくつかの産科的有害転帰のリスクが増加する。   (Villamor E. Lancet 2006; 368)

妊娠間隔が短いことにより、周産期アクシデントの発生率が高まることは、その他にも多数の報告が出ており、ほぼ間違いない事実と考えられます。
周産期の安全性を確保する観点で、あけるべき妊娠間隔については、
6ヶ月でよいのか、12ヶ月なのか、もしくはそれ以上あけた方がよいのかは
はっきりとはしていません。(6ヶ月以降は大きくは変わらないと予想される。) 
ただ、少なくとも半年以上あけた方が良いことは、理解しておくべきでしょう。

産後うつについて  ~心も落ち着いてから次の妊娠を~

産後うつとは、2週間以上持続する症状(気分低下、無気力、不眠など)が特徴で、過去にうつや省察的因子(過剰に繰り返し考え込む思考)がある人ほど長期化しやすい傾向があります。
未治療の場合、数ヶ月から1年以上も続くケースもあります 。
早期に治療(心理療法+薬物療法)を開始すれば、数週間から数ヶ月で改善することが多いとされ、早めに対応をすることが重要な病気です。
日本において、産後うつ病の有病率は約10~15%とされており、女性と子どもに大きな影響を与えます。1割以上の方はうつ傾向があるということなので、誰にでも起こることをまずは覚えておいてください。

米国においては、産後女性の健康管理の一環として、うつ病のスクリーニングを、生後1、2、4、6ヶ月の健診時に行うことを推奨しています。
         (Screening for perinatal depression. ACOG Committee Opinion. Obstet Gynecol 2018 ; 132) 

日本においては、米国のような対応がされることは少ないと思いますので、
気持ち的な面で不安がある方は不妊治療を開始する前に、
分娩施設や、神経精神科への受診相談を行ったり、もしくはご自身でスクリーニングをして
精神的な余裕があるのかを確認するのもよいかもしれません。

有名なスクリーニング方法であるEPDS(エジンバラ産後うつ病質問票:Edinburgh Postnatal Depression Scale) は、産後うつ病のスクリーニングを目的として作られた10項目の質問票で、世界各国で使用されています。日本産婦人科医会のHP(https://mcmc.jaog.or.jp/pages/epds)から質問票、評価方法が確認できますので、ご希望の方は確認をしてみて下さい。

持病がある場合の注意

持病のある方、もしくは妊娠中に病気を発症した女性にとって、産後から次の妊娠までの期間は、健康状態を最適化するよい機会となります。しっかりと健康的な状態に戻すことで、次の妊娠中のアクシデント予防や、また将来の健康状態の改善の機会にもなります。

これらの問題を解決、もしくは妊娠許可がえられる状態まで管理を行ってから、
次の妊娠を臨むようにしましょう。
担当医師がいればしっかりと確認をするようにしましょう。

帝王切開後の場合

帝王切開にて分娩された女性は、妊娠間隔が短くなってしまうことで、
次の妊娠時の子宮破裂や母体合併症、および輸血のリスク増加と関連します。
分娩間隔(出産から次の分娩するまでの期間)が18~24か月以内の場合、帝王切開後の子宮破裂リスクが増加すると報告されています。つまり帝王切開での分娩後は、約1年は妊娠しない方がよいという計算になります。また、妊娠間隔が6ヶ月未満の女性では輸血リスクが上昇するとされています。 (Stamilio DM, Obstet Gynecol 2007; 110) (Shipp TD, Obstet Gynecol 2001; 97)

帝王切開の子宮縫合部がしっかりと修復されるまえに妊娠することで、縫合部が引き延ばされ子宮破裂のリスクをあげてしまいます。といっても、次の妊娠までにどのくらいの期間が必要となるかは予想しずらいため、多くの産婦人科医は帝王切開後の避妊期間を6ヶ月から12ヶ月程度で説明する場合が多いと思います。
帝王切開時にどのような縫合になったのかによっても、適切な避妊期間は変わりますので、
分娩担当の産科医師に避妊期間の目安は聞くようにしましょう。

次の妊娠のためには断乳が必要

授乳中は、乳汁分泌を促進するホルモンであるプロラクチンの分泌が増加等により、卵巣においての卵胞発育が抑制され、生理が止まったり、妊娠率が低下します。
この状態は「授乳性無月経」と呼ばれ、次の妊娠を考えたければまずは断乳し、
元のホルモンバランスに戻すことが重要となります。

また、不妊治療を行う際には女性ホルモン剤を使用することが多くなります。
授乳している状態で、不妊治療を開始することにより、新生児に女性ホルモンが多く移行する可能性が考えられます。
この懸念は、ピル内服中の授乳婦の乳児に新生児黄疸の悪化や、女性化乳房など、エストロゲンの直接作用に関連する副作用がみられた報告によります。
              (Arias IM, J Clin Invest1964, 43 / Curtis EM. Obstet Gynecol 1963,23:295)
ただし、母乳中の女性ホルモン濃度が高度になることは少ないという報告や、経皮投与では母乳中からはエストロゲンは検出されなかったとする報告もあり、過剰に乳児への心配をする必要はないかもしれません。       (Perheentupa A, Fertil Steril. 2004, 82) 
現時点までに授乳中の患者におけるホルモン補充を禁止するほどの医学的証拠は存在しませんが、懸念は拭えないので断乳してからの不妊治療開始の方が新生児にとっては安全と考えられます。

授乳については、母児への良い影響もありますので、
早めの断乳-不妊治療をするかは悩むべきポイントかと思います。
詳細は別項にまとめますので、ご覧いただきご検討の一助にしてください。
授乳と母児への影響の詳細