一年以上の自然妊娠トライは意味がない?

特に病気のない健康な男女が妊娠を希望し、避妊をせず夫婦生活を営み1年以上過ぎても妊娠しない場合を“不妊症”といいます。不妊症とは、なんらかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性が低い状態をさします。
そのため、不妊症の定義を満たす場合(トライしているのに1年間以上妊娠できていない)は、
少なくとも医療的介入が好ましいわけですが、病院にかかるのは中々勇気がいりますので、
足が向かずに長期間過ぎてしまうなんて人もいらっしゃると思います。
実際に、もっと早くクリニックに来てくれていれば提示できる選択肢も増えていたのに
というカップルは多く散見されます。

妊娠率は加齢に対して負の関係性が強いので、動くべき時に動かないのは、
妊娠することにとって大きなマイナスになります。
この項では、どの時期に産婦人科、不妊治療施設を受診した方が良いのか
について説明していきます。
それぞれのカップルで状況、背景も違い、一概には言いづらい部分もありますので、
自己判断の参考程度にとどめて、ご活用下さい。

不妊治療開始を決める因子とは

医療施設へ受診し、不妊治療を開始すべき時期は、
複数の因子によって規定されます。
主なものを提示していきます。

重要な因子
・年齢 (女性、男性)
・不妊期間 (=妊活期間)  

その他の因子
・挙児希望人数  
・卵巣機能 
・月経状況
・女性病歴 卵巣腫瘍 子宮内膜症 
・出産歴 
・性交渉回数

主には年齢や不妊期間(妊娠をトライしていて結果が出ていない期間)で目安を定め、
その他の因子をみてカップル毎に決定すると良いと思います。
主には年齢や不妊期間(妊娠をトライしていて結果が出ていない期間)で目安を定め、
その他の因子をみてカップル毎に決定すると良いと思います。
この項の情報源は下記の論文報告を中心に組み立てています。 
         (Fertil Steril . 2022 Jan;117(1):53-63. Optimizing natural fertility: a committee opinion)

不妊治療のステップアップとは

妊娠にむけてのステップとしては左のように4つのステップがあります。
当頁は、主にカップル独自に行っていた1段階目から、2段階目以降の医療施設へ受診する時期をどのように設定すべきかについて述べていきます。

妊活期間 と受診時期 
    ~妊活期間は長くても1年までが推奨

約 80% のカップルが妊娠を試みてから最初の 6 か月以内に妊娠します 。
また、周期毎の妊娠確率は最初の 3 か月で最大になります。
(Hum Reprod. 2003; 18: 1959-1966  Time to pregnancy: results of the German prospective study and impact on the management of infertility. Gnoth C.)

上記の様に、自然妊娠が可能な場合、多くは妊活開始半年以内で結果がでるとされています。
その期間を超えてくると、何かしら自然妊娠はできない要因を持っている可能性が出てきます。
もし自然では上手く妊娠できない要因があれば、妊活期間を過度に長くとりすぎることは、
時間を浪費し、加齢を進めてしまうだけになってしまいます。
不妊症の診断定義も、1年を超えた場合はと規定されています。
そのため自己妊活期間は長くとも1年までにして、
それまでに結果がでなければ、少なくとも医療施設を受診し、
検査、治療を開始すると良いでしょう。

後述する内容により、さらに早めに受診すべきかも重要になりますので
その他の因子もみていきましょう。

女性年齢 と受診時期
    30代後半は早めの受診がお勧めです。

妊娠率に最も関係が強い因子が女性年齢であることは多くの人が知っているのではないでしょうか。母体の加齢に伴い、妊娠率が低下する仕組みは、卵子染色体の異数性発生率が増加するためです。それでは、女性は加齢によりどの程度妊娠率が低下するのかについての報告をいくつか見ていきましょう。

1.相対生殖能力は、生殖能力のピークである 20 代後半から 30 代前半の女性と比較して、40 歳で約半分に減少します。
(Am J Obstet Gynecol. 2017; Ageand fecundability in a North American preconception cohort study. Wesselink A.K.)

2. 宗教上避妊を禁止されているフッター派を対象とした研究では、
40代に妊娠が起こることはほとんどなく、最後の妊娠時の母親の平均年齢は41歳になる直前だった。
フッター派隔絶的な生活、信仰と固有の文化を尊重する敬虔なキリスト教徒 離婚、避妊が禁止されている。

3.下記表は、未産婦と経産婦(出産経験ある女性)で分けて、
25-27歳女性の出生率を1.0とした際の、年齢別の相対出生率の推移を表したものです。
(Br Med J . 1985 ;290:1697-700. Effects of age, cigarette smoking, and other factors on fertility: findings in a large prospective study)

まず未産婦(出産歴がない女性)からみていきますと、
30台前半から妊娠率は下がり、30台後半以降になると低下が顕著となります。
古い論文のため38歳以上はデータを取っていないようでしたが、下段の経産婦38歳以上の低下傾向を参考にすると、そこからさらに低下していくと推測されます。

次に経産婦(出産経験がある女性)をみますと、
本格的に出生率が低下するのは30台後半からというデータになっています。
これは、一度は出産経験があるので、少なくともその時点では明らかな不妊原因がない身体であったため、次も自然妊娠できやすいといえる結果でしょう。しかし、数年の経過で不妊原因が発生することも当然あるため、1年以上妊活をして結果が出ない場合は不妊治療開始した方がよいともいえるでしょう。


上記複数の報告から、女性は30歳を超えたころから妊娠率が低下するので、
待機的な戦略は挙児に対してマイナスが発生する事、
30歳台後半以降になるとそのマイナスが大きくなってくることがわかります。
これらから、あくまでも私見による目安になりますが、
不妊治療施設を受診した方がよい時期を、年齢毎にまとめてみました。

あくまでも、その他の状況で大きな異常がないことを想定しての推奨内容になります。
卵巣機能が年齢以上に低下している場合は早めの開始が推奨されますし、
月経不順(周期が25~38日以外)である場合も早めに医療施設での対応が好ましいでしょう。
その他の項も順に読んでいただき、カップル毎にご検討下さい。

男性年齢 と受診時期

男性年齢もある程度は考慮すべきだと思いますが、女性ほど加齢の変化は受けずらい因子といえます。

・男性の精液パラメータも 35 歳を過ぎると明らかに低下しますが、男性の生殖能力は約 50 歳まではそれほど影響を受けない。
       (Dunson D.B. Increased infertility with age in men and women.Am J Obstet Gynecol. 2004; 103: 51-56)

女性は40代後半になると、治療を行ってもなかなか妊娠に至れませんが、
男性は上限年齢は明確にはないと考えます。
ただし、当院自施設研究データでは、
精子DNA断片化率が30代くらいから徐々に悪化していくと結果がでています。
精液検査としては、大きく変化がでなかったとしても、
精子の質は徐々に落ち、カップルとしての妊娠率は徐々には下がっていくと
予想はされますので、ある程度の年齢であれば少しずつ動き始めることも必要でしょう。