子宮内細菌叢が良好でないと、妊娠率が下がってしまうことは別項で述べた通りです。
この項では、
子宮内細菌叢と妊娠率との関係について、
なぜ子宮内細菌叢を改善すべきなのか、
についてまとめていきます。
子宮内細菌叢についての歴史
ヒトの体内、体表には膨大な数の細菌が存在しており、
絶妙なバランスでヒトと細菌は共生しています。
体調の変化や、投薬などにより、知らぬ間に細菌叢も変化しバランスを変え、
その変化はまたヒトに影響を与えると考えられます。
体内において基本的に無菌な臓器は、
心臓血管系や中神経系(脳、脊髄)、腹腔内臓器(肝臓、膵臓等)、下気道(肺)、上部尿路(腎臓等)がありますが、
逆に細菌が常在している臓器としては、
皮膚、消化器系(口腔~大腸)、上気道(咽頭等)、下部泌尿器系(腟、子宮等)があげられ、
外界と交通がある部位には、細菌が存在します。
中でも、生殖器である子宮については細菌が常在していると確認されたのは2015年頃と非常に研究の歴史が浅い臓器であります。
腟には細菌が存在していることは古くから知られており、
腟内細菌叢が崩れることで帯りものの異常や陰部の痒みなどを起こすことはよく知られていました。 腟と子宮とは子宮頸管という細い交通路があり、そこから月経血などが流れてきます。
よく考えれば子宮内にも細菌が存在する可能性はありそうですが、2015年頃までは誰も研究していませんでした。最近になって、子宮内細菌叢の存在が確認され、どうやら妊娠成立や、妊娠継続などに関与していることがわかってきており、注目されている訳です。

正常な子宮内細菌叢とは

ある報告(Canha-Gouveia et al., Frontiers in Endocrinology, 2023)では、腟から子宮、卵管までの細菌叢を報告しており、腟内細菌叢においてはほぼ乳酸菌が占めており、子宮、卵管と上行するほど、乳酸菌の割合が減少し、細菌叢が多様化していくことを報告しています。
その他、様々な論文において、健康女性の子宮内細菌叢では乳酸菌が8割以上を占め、優位な環境であると報告されています。
子宮内細菌叢と妊娠との関係についての報告

子宮内細菌叢の検査を開発したグループの報告を紹介します。
(Moreno et al., Am J Obstet Gynecol, 2016;215:684-703)
子宮内細菌叢において、
90%以上が乳酸菌である群をフローラ正常群(図の左)、
それ以外の細菌叢の群を異常群(図の右)と、
区分して妊娠率、生児獲得率(無事出産に至る率)を比較すると、
かなりの差がでることが報告され、生殖医療業界に衝撃が走りました。
その後も下記の様に、
子宮内細菌叢は乳酸菌過多になっていると妊娠率が高く、
逆に細菌叢が悪いと妊娠率が下がるという報告が多くでており、
子宮内細菌叢が妊娠にとって重要であることはほぼ疑いようがないと
考えられるようになりました。
・乳酸菌の存在量とIVF-ET後の胚着床成功との間に強い正の相関が認められた。
また、生殖管における微生物群集の構成および構造は、胚着床不全(IF)群と健常対照群との間で顕著に異なっていた。
(Su et al. 2024 Frontiers in Microbiology / Cellular & Infection Microbiology Vaginal and endometrial microbiome dysbiosis associated with implantation success)
・乳酸菌₍L. crispatus)の相対存在量が低い症例で、生児獲得率が有意に低かった。
ART治療の成功は 乳酸菌₍L. crispatus)の相対存在量と関連している可能性がある。
続発性不妊(2人目以降の不妊)は原発性不妊(1人目不妊)よりも子宮内膜細菌叢異常が関連する可能性が高いと示唆された。
(Bui TM, Nematollahi S, Polanski L, et al. The endometrial microbiota of women with or without a live birth. Sci Rep. 2023;13:30591.)
また、下記の様に妊娠継続においても、子宮、腟内の乳酸菌が多いことが重要であるとの報告が多数でています。
・反復流産の女性の子宮内膜細菌叢を解析したところ、乳酸菌属の減少や Gardnerella/G Ureaplasma などの悪玉菌の増加を認め、早産や流産のリスクと関連する。
乳酸菌減少は妊娠継続率にも不利となる。
(hi et al. 2022 Uterine endometrium microbiota and pregnancy outcome)
・腟内細菌叢において、乳酸菌₍Lactobacillus crispatus)の減少や、BV関連菌(BVAB1, Sneathia など)の増加が、早産リスクと有意に関連すると報告された。
多様で悪玉菌優勢=高い早産リスク
乳酸菌₍L. crispatus)優勢=低い早産リスク
(Fettweis et al. 2019 Nature. Vaginal microbiome and preterm birth)

乳酸菌は経腟投与が良い (経口投与ではなく)
それでは、子宮内細菌叢を改善するためにはどうするとよいのでしょうか。
経口投与の乳酸菌関連商品が、様々な目的で売られていると思います。
もちろん、整腸作用などを期待するべき状況では経口投与が好ましいでしょう。
ただ、子宮は膣とつながっており、腸管とは交通性がありません。
子宮内細菌叢の重要性が報告されてから、経腟投与の乳酸菌製剤の効果についての報告が多くありますので、いくつか紹介をします。
・ 乳酸菌の経腟投与により、子宮内乳酸菌の増加+異常細菌叢の相対比低下が確認された。
経口投与は目的部位への移行が必要で、到達・定着のためには長期投与が必要になり得る一方、経腟投与は局所投与としてより直接的に効果を与える。
(López-Moreno A, Aguilera M. 2021 J Clin Med メタ解析)
・子宮内細菌叢の改善においては、
経腟乳酸菌坐剤+抗菌薬が**78.6%**と最も高く、
経口的な乳酸菌プロバイオティクス+プレバイオティクス(約30%)と
比較してより良好であった。
(Kadogami D, et al. 2020 (Reproductive Biology)
ということで、
・妊娠率を高めるためには、子宮内細菌叢が大切であること
・子宮内細菌叢を改善するためには、乳酸菌製剤の経腟投与が重要であること
がわかっていただけたかと思います。
乳酸菌膣剤については、購入可能なものが限られています。
別項でまとめております。