妊娠中に避けたほうがよい医薬品は

妊婦さんを対象とした人体実験はできないため、絶対に大丈夫といいきれる薬はないと思ってください。
逆に明らかに避けた方がよい薬、つまり催奇形性、胎児毒性が判明している薬剤はいくつかありますので、
注意が必要な薬剤を列挙していきます。 ただし、これらの薬を使用したとしても催奇形性、胎児毒性を実際に
引き起こしてしまう確率は高くはないと考えられています。    

下表 : 妊娠中の使用危険性が高い薬剤     産婦人科診療ガイドライン 参照)

妊娠をトライしている方で、表中の薬剤を使用している場合は、妊娠希望であることを担当医と共有し、コントロールしてもらうことが重要でしょう。
また、痛み止めとしてよく使用されるロキソニン、ボルタレン(NSAIDS)などは妊娠末期ほど注意が必要ですので気を付けてください。

薬剤リスク分類 (妊娠中)

前述した明らかに避けた方がよい20種弱の薬剤には十分な注意が必要ですが、それ以外についてはどうでしょうか。そもそも、自然に3~5%で胎児先天異常は起こりうることなので、このベースラインとなる確率が薬剤使用により上がってしまうどうかを考える必要があります。
しかし、各薬剤について何%リスクが上がるかは不明であり、せいぜい、おそらく安全、軽微なリスクあり、リスクあり、明らかにリスク といった程度の分類をすることが精一杯だと思ったほうがよいでしょう。

リスク分類において指標となる基準は、国内基準(=薬剤添付文書)、海外基準(=FDA分類、オーストラリア分類)があります。

薬剤リスク分類 日本版、海外版

薬剤添付文書 (日本)
日本国内の基準として、薬事法に基づいて厚生労働省が監修作成した薬剤添付文書があり、その中に妊婦の使用についても言及されています。 この内容については、簡単にインターネットから情報を確認することができます。
添付文書中で確認すべき事項としては、①禁忌事項 、②注意事項内の妊婦についての事項をみてみましょう。

妊娠中使用が禁忌事項に書かれている場合は、基本的に使用しない方が良いです。

ほとんどの薬剤で、注意事項の中に妊婦の使用についても言及されています。
有益性が上回る場合に使用すべきと記載されている薬剤が非常に多いです。
これは明らかな危険性はないが、安全とは言い切れないので、薬を使う理由(メリット)をよく考え、
必要性が強ければ必要量のみ使用しましょうという意味です。
これを有益性投与といいます。

国内基準である薬剤添付文書は、傾向としてややディフェンシブに書かれており、
またリスク分類がないため、薬剤の具体的リスクが見えてこないことが多いです。
そのため医療現場でよく参考にしているのが、海外での妊婦への薬剤リスク分類です。
代表的なものがFDA分類(米国)やオーストラリア分類です。

・ FDA分類
FDA分類は、薬剤リスクを5つのカテゴリに分けていて、どの程度危険かが分かりやすく、
調べやすい(日本でも情報を得やすい)分類だったので臨床現場でも重宝されていましたが、
2015年にこのカテゴリ分類が廃止され、薬剤個別に安全性、危険性が記述される形式に改正されました。
そのため、日本でこの情報を得ることが難しくなり、参考にしづらくなってしまいました。

・ オーストラリア分類
もう一つの海外基準であるオーストラリア分類ですが、薬剤のリスクをカテゴリに分けてしてくれており、
またインターネット上で調べることが可能です。
薬がどの程度の危険性に位置するのか知りたければこの分類を調べてみましょう。
英語のページにはなってしまいますが、“オーストラリア分類、妊婦、検索” でひくと、
オーストラリア政府が管理する薬剤情報ページに入れます。
下方の“Datebase search”から薬剤のカテゴリ分類を確認することができます。

オーストラリア分類のリスクカテゴリは上記の様になります。
上段ほど安全目な評価とはなりますが、一概にそうとも言い切れないので注意しましょう。
A : 安全性高い
X : 危険性高い 
上下端はわかりやすいと思います。
その間のカテゴリB~Dは、日本でいうところの有益性投与にあたるでしょう。
B1、B2はやや安全目な薬剤、
B3、C、Dはやや危険性も伴う薬剤という認識でいいかと思います。
結局は薬剤使用の必要性が高いかで、天秤にかけて考慮していきましょう。

使用頻度が高い薬で例をあげていきますと、
鎮痛薬 
   アセトアミノフェン(カロナール) : オーストラリア分類A
   ロキソニン、ボルタレン、アスピリン : オーストラリア分類C
    妊娠中の鎮痛薬として1stチョイスは、アセトアミノフェンであり、安全性は高め。

抗生剤 
   ペニシリン系、セフェム系(第1、第2世代)抗生剤は、オーストラリア分類A~B1に属しています。
   歯科治療や、その他の処置後などに、抗生剤を処方されることがあると思いますが、
   上記系統の抗生剤は、胎児への安全性は高いと考えられます。