お母さんの健康と赤ちゃんの健やかな発育のために、
食事はとても大切です。
妊婦さんの妊娠前のBMI(肥満・るい痩)や、妊娠中の体重増加量は、
母体合併症の危険性や胎児の発育に関与することが報告されています。
体格はすぐに変えることはできませんが、できる範囲で努力していきましょう。
1. 適切な食事、体重管理が重要となる理由
2. 具体的にどのような食生活が推奨されるか
上記について順に掲載していきます。
(この項は、産婦人科診療ガイドラインを参照にしています。)
妊娠中の食生活が重要な理由 ~体格と周産期リスクとの関係~
・痩せている妊婦では、早産や低出生体重児分娩のリスクが上昇する。
(Enomoto K. PLoS One. 2016)
・痩せている妊婦(BMI<18.5)で妊娠中の体重増加が不十分(9kg以下)の場合、早産や低出生体重児の増加する。
(延本悦子. 日本周産期・新生児学会雑誌 2013)
・肥満妊婦は、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、巨大児などのリスクが上昇する。
(Weiss JL. AM J Obstet Gynecol. 2004)
・肥満妊婦が妊娠中体重増加を抑えることで、巨大児発症の防止につながるかは不明である。
(肯定する報告と、否定する報告が複数みられる)
・妊娠中の体重増加量と、出生時児体重は正の相関関係が認められる。
(Johnson JWC. Am J Obstet Gynecol 1992)
・妊娠中の体重増加量が多いほど、児の出生時体重は大きくなる。
妊娠中体重増加が多すぎると、妊娠高血圧症候群、巨大児出産、帝王切開の頻度が上昇する可能性がある。
(Liu J. Ann Epidemiol. 2014)
右表:
推奨される妊娠中体重増加量
(妊娠前→出産予定日まで)
痩せすぎていても、太りすぎていても、それぞれ周産期リスクを上げる。
妊娠中の体重増加をコントロールすることは、胎児の安全のためにも重要となります。
妊娠中の食生活が重要な理由 ~DOHaD仮説~
DOHaD仮説 (生活習慣病胎児記発症起源説) について
David Barkarという英国の疫学者が提唱した、
妊娠中の母親の健康状態は、胎児の出生後の体質に影響を与えるとする説です。
この根拠となる観察研究として下記があります。
・出生児体重が低い児を、成人後までみていくとメタボリックシンドロームの頻度が高かった。
(Barker DJ. J epidemiol Community Health. 1989)
・第二次世界大戦末期の飢餓状態の母親から出生した児では、
成人後に肥満、耐糖能障害(糖尿病等)、高血圧を発症する頻度が高かった。
(Roseboom TJ. Mol Cell Endcrinorol. 2001)
このように、“将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、
胎生期や生後早期の環境の影響を強く受け決定される。”という仮説で、十分にありうる内容です。
生物にはDNAという身体の設計図がありますが、その設計図のどの部分を、
どのように利用し、どのようなものを造るかは環境などの要因が影響するというわけです。
妊娠中は、自分だけでなく胎児への影響を考え、低栄養すぎる、もしくは過栄養すぎるという状態は
避けた方がよいでしょう、 という提唱になります。
つわりの時期に、低栄養になってしまうのは致し方無いと思いますので、
体調がよいときは赤ちゃんのためにもバランスよい食生活を送りましょう。
理想的な妊娠中の食事とは
それでは推奨される食生活とはどんなものなのかについて述べていきます。
1. バランスよく摂取する
厚生労働省、農林水産省は「主食」「主菜」「副菜」「牛乳・乳製品」「果物」を
バランスよく摂取する事を推奨しています。
適度な「水分」をとる事も大事ですし、適量であれば「菓子・嗜好飲料」も摂取しても良いと思います。
2. 妊娠前よりも必要摂取カロリーは上がる
標準的体格の妊婦における必要摂取カロリーは、非妊娠時と比べて
妊娠初期 +50 kcal 妊娠中期 +250 kcal
妊娠後期 +450 kcal 授乳中 +350 kcal
(日本人の食事摂取基準 2015年版. 「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書)
ただし体格により、推奨される必要摂取カロリーは異なるので
肥満傾向の方は上記よりも少なめに、 痩せ傾向の方は上記よりも多めが目安となるでしょう。
前述の “推奨される妊娠中体重増加量” も加味して、途中途中で自分にとっての適切な食事量を考えましょう。
3. 妊娠中不足しがちな(必要性が増す)成分を意識して摂取する
妊娠中に不足しがちな成分としては、カルシウム、鉄分、葉酸があげられます。
詳細は後述します。
4. 過剰摂取に注意が必要な食べ物
妊娠中に取り過ぎると胎児に悪影響を及ぼす成分として、ビタミンAがあります。
また、水銀濃度が高い魚介類も過剰摂取することは勧められません。
こちらも詳細は後述します。