無事に妊娠できたけど、お腹の赤ちゃんに病気などないだろうかという心配は、
誰しもが考えることでしょう。
現代医学においては、お腹の中の赤ちゃんの細胞やDNAを解析することで、
様々な情報がえられるようになりました。
妊娠後から産まれてくるまでに、胎児の状態を調べることを
“ 出生前検査 ” といいます。
しかし胎児の情報を調べることは、
カップル+赤ちゃんを幸せにするかというと、イコールではない時があるかもしれません。
これは非常にセンシティブな内容であり、
ヒトや胎児の尊厳を侵したり、生命の選択を強いられる可能性もあるため、
逆に出生前検査の存在を知らない方が幸せだったという人もでてくるかもしれません。
出生前検査について是非知っておきたいという方以外は、
この項の内容は見ないことをお勧め
します。

この項の内容は
産婦人科診療ガイドライン 産科編2023年 (日本産科婦人科学会刊行)
の内容を参考にさせていただき作成しています。

出生前検査とは

出生前検査とは、
赤ちゃんが産まれる前に生まれついての病気がないかどうかを調べる検査のことをいいます。
産まれてくる赤ちゃんが、小さなものも含めて何らかの異常をもっている確率は、
100人のうち3人といわれています。
胎児の異常は、形態的な異常と、機能的な異常に分けられ、両者がオーバーラップすることもあります。
胎児異常の原因は多岐にわたりますが、その一部は遺伝子、染色体の異常に起因します。
染色体異常は胎児疾患の原因の約25%を占めるとされています。

染色体とは (極簡単にまとめると)

細胞の核内に存在し、人体を作るための設計図のようなものです。
通常 男親から23本、女親から23本もらい、計46本 (23対)の染色体をもちます。
この設計図を利用して胎児の身体は作られるため、
染色体本数の異常や、部分的な異常などが存在すると胎児異常を起こす原因となります。

胎児に染色体異常があるかは、出生前に調べることができるため、
様々な理由により検査を希望するカップルは、胎児染色体の検索を行っています。
しかし、仮に染色体異常が見つかったとしても、胎児異常があると決まるわけではないですし、
仮に胎児異常が見つかったとしても、その生命をその後どう扱うべきかは正解がなく、
方針は個々で決めていくことが必要となります。
そのため、もし行う場合は出生前検査に精通している医師、遺伝カウンセラーがいる施設で行うことが必須と考えましょう。

出生児の約3%と数多ある胎児異常の中で、
出生前検査で診断できるものは、ほんのごく僅かでしかありません。
出生前検査で問題なかったからといって、胎児異常はないと断定できないことも理解しておくべきでしょう。
一方で、貴重かつ有益な情報がえられることも確かな事実です。
出生前検査にはいくつもの方法があり、胎児への侵襲の有無や、
それぞれでわかる情報の範囲、その信憑性などが違うため、どの検査を選択するかも非常に重要になります。
次項では、検査の種類や特徴についてまとめていきます。

出生前検査の種類と特徴

出生前検査には、
診断確定を目的とする確定的検査と、
罹患リスクの推定を目的とする非確定的検査
に分けられます。
非確定的検査は、胎児へのリスクはほぼなく、母体から採取した検体から胎児の状況を予測する方法が多く、あくまでも対象疾患である確率がどの程度であるかと推測します。
一方で確定的検査は、検査自体によって流産など胎児への悪影響を及ぼすリスクを冒してでも胎児検体を採取することで、かなり高い確率で診断を行うことができます。

通常の流れであれば、まず検査自体を行うかをカップルで検討し、
検査を希望する場合は非確定的検査を行いどの程度の確率で対象疾患の可能性があるかを把握し、
最後に確定的検査でその診断を行います。
出生前検査では、確定的検査での診断を受けて、
最後に妊娠を継続するのか、もしくは中断するかを二人で判断する必要があります。
安易に検査実施を決断しない方がよい理由はここにあります。

それでは、主な出生前検査とその説明を下記に列挙します。
青色で示されている検査群は非確定的検査、
赤色で示されている検査群は確定的検査です。
緑色の超音波検査は、何をみるかで確定的検査にも、非確定的検査にもなりうる検査です。

トリソミー(trisomy)」とは、
本来2本1組で存在すべき染色体が3本 存在している状態を指します。
これは染色体異常の一種で、先天性疾患の原因となることがあります。
人間の染色体は通常 **46本(23対)**ありますが、
トリソミーではある染色体が 1本余分に存在し、合計47本になります。
例えば: 
21トリソミー(ダウン症候群)では、21番染色体 のみ3本存在する状態です。

非確定的検において、
NIPT、母体血清マーカーは、母体の採血検体で検査を行い、
NT測定は胎児超音波検査で頚部のNT(説明が難しいので、興味があれば別途調べてみて下さい。)を測定する検査です。
母体血清マーカー+NT測定では、これらの検査を組み合わせることで診断精度を上げています。
いずれの検査も、母体からの検体採取のため胎児へのリスクはなく、安全に検査が行える一方で、
結果として判るのは、対象疾患である可能性がどの程度なのか までになります。

確定的検査では、
実際に胎児の遺伝情報を調べるために、胎盤組織、や胎児細胞を採取します。
絨毛検査で採取する胎盤組織は、元々同じ受精卵を起源とするため、胎盤組織の遺伝情報はほぼイコール胎児遺伝情報になります。
羊水は胎児が排泄する尿であり、胎児の皮膚、消化器、泌尿器からはがれた胎児由来細胞(上皮細胞や線維芽細胞など)がえられます。
このように胎児由来の細胞をえることで、染色体分析などを行い胎児診断を行っていきます。
ただその過程で、妊娠子宮内に針を穿刺し、組織を採取する必要があるため、
検査自体によって流産を起こす危険性が低いながらもあることが注意点となります。



種類も多くて、違いも判りずらく、結局何をすればよいの? という状況だと思いますが、
まだどの検査を、どの順番で行いたいまでは決めないほうがよいでしょう。
概要を理解したうえで出生前検査を希望する場合は、
妊娠・分娩管理してもらっている施設の医師にその旨を相談してみましょう。
地域、施設により、推奨される検査内容は変わるかもしれませんので、
カップル、医師、カウンセラーの単位で検査内容を考えていくとよいでしょう。

もう少し詳細な情報を欲しい方に向けて、お勧めなサイトを掲載します。
出生前検査認証制度等運営委員会のサイト 
  厚生労働省の専門委員会と、日本医学会が参画して運営しているサイトです。
  検査の種類・内容や、行政の対応などわかりやすく書かれているので、
  出生前検査を検討されている方はご確認いただけると良いと思います。

妊娠中の検査に関する情報サイト 
  子ども家庭庁が作成しているサイトです。
  出生前検査についてと、NIPTを実施できる認証施設が地域ごとに掲載されています。
  こちらもご参考にしていただけるとよいと思います。