採卵により獲得した胚を戻す方法として、
①新鮮胚移植 (採卵周期にそのまま胚移植) 
②凍結-融解胚移植 (採卵周期は胚を凍結保存、後日胚移植日に胚融解、移植する)
この2つがあります。
それぞれに、メリット・デメリットがあるわけですが、
一般的な認識としては、胚を凍結保存するよりは、何もせずにそのまま新鮮胚移植をしたほうが、胚に優しそうで妊娠率がいいのではと思うのではないでしょうか。
しかし、実際はその逆の結果が多く報告されており、
凍結-融解胚移植の方が妊娠率は高く、その結果をふまえて件数も多く施行されています。

胚を凍結する行為が胚にいいのかというと、そうではありません。
凍結胚移植により妊娠率が上がるというわけではなく、
新鮮胚移植で妊娠率が下がるためにこのような結果になると考えられています。

この項では、2つの胚移植方法についての現状、なぜ凍結-融解胚移植の方が
妊娠率が高くなるのかについて考察していきます。

胚移植の現状 新鮮胚移植と凍結-融解胚移植どちらが主流?

日本産科婦人科学会は、年次ごとに国内ART施設のデータを集計し公表しています。
例として2021年の臨床データをみていきましょう。

新鮮胚移植:
出生児数 5118人 / 周期数 32959件 = 出産率15.5%

凍結-融解胚移植:
出生児数 64679人 / 周期数 236211件 = 出産率27.4%

2021年日本国内での総胚移植件数は269170件で、
そのうち凍結-融解胚移植は87.8%を占めています。
胚移植後つまりART治療による総出生児数は69797人で、
そのうち凍結-融解胚移植による児は92.7%でした。
つまり、胚移植の約9割は凍結-融解胚移植により行われており、
また出産に至れる確率も新鮮胚移植よりも大分良い結果がでています。

日本産科婦人科学会は、毎年ART臨床データの集計、解析を行っており、
例年このように凍結-融解胚移植の方が妊娠、出産率が良い結果であるため
多くのART施設で凍結-融解胚移植が優先して行われるようになってきています。

新鮮胚移植と凍結-融解胚移植の特徴を比較

新鮮胚移植
採卵により採取した胚を、数日後にそのまま胚移植する方法。
胚移植日は採卵日から設定され、胚盤胞移植であれば通常採卵5日後に実施される。
胚は凍結せずフレッシュな状態で移植される。
メリット:
時間がかからず最短で妊娠tryを行うことができる。
胚凍結-融解によるダメージリスクがない。
デメリット:
採卵後のため、ホルモン数値が通常よりも高く、子宮内膜が胚移植に最適な状態でない場合が少なくない。
新鮮胚移植により妊娠が成立した場合、採卵のため卵巣刺激を行った卵巣はより腫大し、
OHSS(卵巣過剰刺激症候群)が重症化する危険性がある。

凍結-融解胚移植
採卵により得られた良好胚を一度凍結保存し、別の周期で胚移植周期を形成し、
子宮内膜の状況にあわせて至適日に胚を融解、移植する方法。
融解胚移植周期方法としては、排卵周期とホルモン補充周期の2種類がある。
メリット:
胚は既に確保、凍結をしており、子宮内膜の状況のみに注視して周期を形成することができる。
OHSSのリスクがほぼない。
デメリット:
融解胚移植周期を形成するために、時間、費用がかかる。
胚の凍結・融解の過程で、低確率(1%弱)で胚にダメージが起こり、胚移植できない可能性がある。(ただし、現在の技術ではそのリスクは非常に低いです)。

まとめますと上図のようになります。
新鮮胚移植のメリットは、時間、費用の負担軽減があげられ
凍結-融解胚移植のメリットは、高い妊娠率、安全性であるといえるでしょう。
基本的に妊娠率、安全性の方が大事と考える医師が多いので、
結果として凍結-融解胚移植が9割を占め、主流となっています。

なぜ新鮮胚移植だと妊娠率が低下するのか?

では、採卵周期に胚移植を行うと妊娠率が下がるのは何故なのでしょうか。
この要因には複数の事項が考えられるのですが、本項では新鮮胚移植における妊娠率低下に最も関連する事象のみに焦点を当てて解説していきます。

難しい内容になってしまいますが、もし興味があれば一読して理解してみて下さい。
これを理解するためには、
薬を使わない自然周期での自然妊娠や凍結-融解胚移植と比較しなければなりません。
まずは、自然周期での妊娠成立までの図を見てみましょう。

①自然周期での着床までの流れ

月経が始まるころ、数㎜サイズの卵胞が発育し始め、E2(エストロゲン)が分泌されます。
卵胞が大きくなるにつれE2分泌量は増え、それにより子宮内膜は厚く、着床に適した状況に変化します。
卵胞は一定の大きさに発育すると、排卵します。
排卵後の組織からは黄体ホルモンであるP4(プロゲステロン)が分泌されます。
P4は子宮内膜の性状を変化させ、胚が着床できる状況に変えていきます。
着床成立には、このP4が非常に重要や役割を担っており、P4が一定値以上に達してから約120時間後ころ(約5日後)に子宮は胚着床に適した状態になる人が多いとされ、この時間がかなり重要であることが分かってきています。
個人差はありますが、胚が着床できる時期(Implantation Window)はP4分泌から120時間±前後一日程度であることが多いとされています。
通常排卵した後の卵子は受精、分割、胚盤胞となり孵化するまで約120時間くらいかかり、子宮もP4の影響を受けている時間は同様に120時間程度になるので着床しやすい環境なわけです。
凍結-融解胚移植では、P4が分泌されてから120時間前後に胚移植日を設定すれば妊娠率は最大になると推測されます。

②新鮮胚移植周期での着床までの流れ
一方で新鮮胚移植周期ではどのような違いが出るのでしょうか。
重要な部分は下図の黄色にした部分です。

新鮮胚移植周期では、そもそもまずは採卵をなるべく良い条件で行うために、発育卵胞数を増やすべく卵巣刺激を行うことが多いです。この卵巣刺激により着床率が下がることになります。
通例では月経初旬から薬剤による卵巣刺激を開始します。卵胞発育数は自然周期よりも増えるため、まずはE2分泌量が高度となります。これも程度が大きければ足を引っ張る要因になるかもしれませんが、最も重要な点ではないと考えます。
発育卵胞数が多数になるとP4を分泌する組織量が増えてしまうため、排卵(=採卵日)前からP4は一定値以上になってしまいます。これは卵胞発育数にもよりますし、個人差もありますが、採卵日の
数日前から起こります。
採卵前から子宮内膜は着床の準備を開始してしまいますが、一方で胚は採卵日から分割を開始します。これにより子宮の着床準備と、胚発育のスピードに数日のずれが発生することになります。
新鮮胚移植において妊娠率が低下する最も大きな要因は、このP4早期分泌開始による、着床時期のずれと考えられます。
胚が着床できる時期(Implantation Window)には個人差があり、
この期間が元々長い人は影響なく妊娠できることもあれば、
平均的な方であれば妊娠率が低下する要因になるでしょう。
逆にいえば、卵巣刺激を行わない自然周期での採卵や、卵胞発育数が非常に少ない卵巣刺激周期であれば新鮮胚移植でも妊娠率低下は起きないかもしれません。
ただし、上述のP4早期分泌以外にも、
卵巣刺激によく用いられるクエン酸クロミフェンは子宮内膜肥厚を抑える効果があったり、
E2、P4の分泌量が増えることによる影響はまだ解明されていません。

新鮮胚移植をどうしても行いたい方に向けて

上述のように、一般的には胚移植方法は凍結-融解胚移植が主流となっています。
ただし、胚凍結-融解により胚が不良な状況になってしまう方も稀にいるかもしれませんし、
凍結-融解胚移植でうまく結果がでなくて、一度新鮮胚移植をトライしたい方もいると思います。



新鮮胚移植を行いたい場合は着床率がなるべく下がらないように、
卵巣刺激の薬剤内容から考慮する必要があります。
通院中の方で希望される場合は、事前に申告いただけると良いかと存じます。

新鮮胚移植に適した卵巣刺激へ変えることで起こりうることとしては、
・発育卵胞数を抑える必要があり、獲得卵子数は目減りする。
排卵リスクが上昇することで、直前で採卵できない可能性が上昇する。
これらデメリットを理解したうえで、実施することが重要であると考えます。