採卵を行い獲得した受精卵=胚は、胎児に分化する組織であり、その質を評価することの重要性
が高いことは言うまでもありません。
胚の評価を最も正確にしようとすると染色体分析、遺伝子解析をする手法があげられます。
これはPGT(着床前診断)において行われていますが、胚に対して侵襲的な方法でもあり、
胚の細胞を数個採取する必要があり、その際に胚自体にダメージをもたらしてしまうという
デメリットがあり、特殊なケースにおいてのみ行われています。

胚評価において一般的に行われている方法は無侵襲な形態的評価方法です。
顕微鏡で胚を見た目で評価し、綺麗な見た目な胚ほど妊娠率が高いことは確認されています。
培養庫から取り出し、顕微鏡で胚を観察するという行為も、胚に対して侵襲的でありますが、
昨今増えてきているタイムラプスシステム培養であれば、完全無侵襲な評価が可能となります。
(当クリニックでは全例タイムラプスシステムにて培養を行っています。)
形態学的評価のタイミングもいくつかあるのですが、
一般的に胚盤胞の時期に行われる評価が胚の善し悪しの判断には最も重要です。

胚盤胞の形態学的評価法 : Gardner分類

受精卵は5-6日の培養経過で、うまく育ってくれれば胚盤胞という着床直前の胚へ分化します。
体外で培養できる最終段階であり、この段階での評価方法としてGardner分類が世界基準となっています。
下図を例にあげますと、培養5日目に 5AB のグレードの胚盤胞という解釈になります。
このように数字とアルファベット2つで表記します。
表記の意味合い、どのような意味を持つのかについて後述していきます。

Gardner分類では3項目に分けて評価基準を設けています。
①発育段階 : 胚盤胞のなかでも胚盤胞になりたての未熟目な段階から、孵化まで終わって着床できる段階に至ったものまであります。基本的に発育が早い方が良好な胚と評価され、5日目時点でclass4を越えてきますと発育が早く良好と評価されます。
ややゆっくりな発育経過であれば6日目にclass

Class1: 胞胚腔が50%以下
Class2: 胞胚腔が50%以上
Class3: 胞胚腔が全体に広がる 
Class4: 胞胚腔が全体にわたり、透明帯が薄くなる
Class5: ハッチング(孵化)しつつある胚盤胞
Class6: ハッチング(孵化)した胚盤胞


②内細胞塊(将来胎児へ分化)の組織量
③栄養外胚葉(将来胎盤へ分化)の組織量 
次に組織量、つまり細胞がどの程度多いかについて評価します。
胚盤胞は、将来胎児へ分化する運命にある部位=内細胞塊と、
胎盤へ分化する運命にあるそれ以外の部位=栄養外胚葉 の2種類の組織により構成されます。
それぞれの部位の組織量をABCの3段階評価で表します。
A : 密で細胞数が多い = good
B : 細胞数がやや少なく、細胞間接着がやや粗 
C : 細胞数が少なく、細胞間接着が粗 =  bad

A は細胞量が多く良い評価で、C は細胞量が少なく劣る評価になります。
組織量の判定で良好な順番を示すと下図のようになります。

良好な判定(Aより)の胚ほど妊娠率が高くなり、Cがつくほど妊娠率が低くなったり、着床しても流産につながる可能性が高まります。
当院ではBB以上の胚を良好胚盤胞として分類し、胚移植・胚凍結の対象胚としています。
C評価がつく胚は胚移植・胚凍結対象としていないわけですので、BとするかCとするかで胚の運命も大きく変わってしまいます。形態評価(ABCの判定)は必ず胚培養士複数名で評価をすること、また当院ではタイムラプスシステムを利用し胚ごとに培養全期間の発育過程をAIが評価、スコア化しているため、胚評価が難しい場合の指標としつつ、総合評価をつけるようにしています。

胚盤胞グレード評価の例

それでは実際にどのようなグレードであれば、どういう胚評価であるのかを
例をあげてみていきましょう。

Day5 4AB 
→5日目でclass4まですすんで発育は早く良好
 胎児組織量も多くかなり良好な胚盤胞

Day5 3BB
→5日目でclass3まですすんで発育は無難に良好
 胎児、胎盤組織量も無難にあり良好な胚盤胞
 良好胚盤胞の中でちょうど中間くらいのグレード評価

Day6 4BA
→6日目でclass4まですすんでおり発育はややゆっくり目だが、
 胎盤組織量は標準よりも多く見た目は良い胚盤胞
 トップグレードの良好胚盤胞よりはやや劣る評価だが、妊娠は十分に狙える評価

Day6 3BC 
→6日目でclass3までしかすすんでおらず発育は遅め
 胎盤組織量が少なく不良な胚盤胞

形態学的評価Gardner分類の限界

胚移植において妊娠できるかどうかの大分部は、胚の染色体が正常核型であるかによって決定されます。前述のように、胚の染色体構造を調べるのは侵襲的になってしまうため、無侵襲で行うことができる形態学的評価法が用いられています。
Gardner分類において良い評価の胚ほど妊娠率が高くなることが確認されています。
これは胚盤胞での形態学的評価が良いほど、染色体が正常核型である確率が高いことに起因します。そのため胚が獲得できた場合は、基本的にGardner分類での評価と、その時点での女性年齢によって、その胚での妊娠率が推測できます。

ただし、それは確率論であることはよく理解すべきです。
例えば1回の採卵で3つの胚盤胞が獲得、凍結できたとします。
①Day5 4AA  、②Day5 3AB 、③Day6 4BB 
グレード評価としては①ほど良好で、②③と順に劣るため、妊娠の期待値は
①>②>③ となります。
まず、一番良好な①の胚を移植して、それで妊娠できなかったとします。
その場合によくおちいりがちな思考としては、①で妊娠できなかったということは、
それよりも劣る評価の②③ではうまくいかないのではないかと考えてしまう場合があります。
これは大きな間違いで②もしくは③が染色体が正常核型で妊娠できる胚であることも当然あります。確率でいえば、①の胚移植よりは妊娠率がやや落ちるというだけです。
結果として③のみが正常核型であり、妊娠はその胚移植で成立することも当然あり得る話です。
どの胚が妊娠しうるものかは、胚移植をしてみなければわかりませんので、
あくまでも事前にわかる成功率推測法であることはよく理解していただく必要があります。
グレードが低い胚であると、もし妊娠できた場合に胎児に奇形など発生する可能性が高くなるといった不安を持つ方もいますが、そういった事実も確認されていません。
妊娠できるのか、赤ちゃんが奇形などをもっていないのかについては、染色体核型、
ないしはDNA配列によって決まる部分が多いと考えられますが、
それは形態学的評価でははっきりはわからないわけですね。

よくある質問

胚の評価で、割球 空胞 委縮 楕円などの記載があるがこれはどういう意味ですか? 

当院では胚評価の際に、Gardner分類以外に形態評価で上記の特徴の有無を確認しており、凍結胚の評価の記載に反映されてしまいます。
しかし、これらの評価がついたことで妊娠率が高くなったり、低くなったりする
わけではありませんので、気にされないでください。
※システム上、お渡しする書面に記載されてしまい、削除することができませんので
ご承知おきください。

良好な評価の胚を移植したが妊娠できなかった。
その場合、評価が劣る胚では妊娠できないのではないか?

前述のようにそんなことはありません。
グレードが劣る胚の方が、実は染色体が正常核型で妊娠することは多々あります。
Gardner分類などの形態的評価は万能ではありません。