この項のまとめ

・着床不全検査の一つとしてEMMA/ALICE検査(子宮内細菌叢検査)がある。
・子宮内細菌叢が不良であると妊娠率が低下する。
・子宮内細菌叢が分かれば、必要な改善方法も判明する。
・当院で検査を受けた方の76%で子宮内細菌叢異常が見つかっている。

形態良好胚が獲得できたら胚移植を行っていきますが、
何度か胚移植を行っても着床できない場合があります。
これを着床不全といいます。

年齢により確率は変動しますが、
形態良好胚は一定確率で染色体が正常核型である良好染色体胚でもあるはずです。
良好染色体胚は、本来であれば着床・妊娠し、出産まで到達できる能力を持っています。
しかし、妊娠率が低下する何らかの特質を持っていることで、
本来妊娠が成立するべき胚でもうまく着床できない状況=着床不全を
起こしてしまう方が一定数いると考えられています。
着床不全を起こす原因としていくつかの候補がありますが、
最も頻度が高いと考えられる原因は子宮内細菌叢の異常であると考えられます。

聞き覚えがある方もいらっしゃると思いますが、
着床不全で有名な慢性子宮内膜炎も子宮内細菌叢異常により引き起こされ、
ある種の悪玉菌が子宮内で増えることが原因です。

子宮内細菌叢を精密に検査する方法として、EMMA/ALICE検査があります。


EMMA/ALICE検査の概要

EMMA/ALICE検査は、子宮内膜組織を採取し、
次世代シーケンサーを用いて子宮内細菌叢(子宮内フローラ)を測定する検査です。
妊娠成立において、子宮内細菌叢(子宮内フローラ)が正常であることの重要性が報告されています。
子宮内を善玉菌(乳酸菌)がほとんどを占めている状態が理想的で最も妊娠率が高く、
逆に悪玉菌が増えていると、炎症を起こす原因となったり、
妊娠率低下や、妊娠継続率の低下を引き起こすと報告されています。

本検査は着床不全に関する検査の一つであり、
また着床不全検査の中で最も大切と考えられる検査です。
胚移植を実施しても中々妊娠できない方や、慢性子宮内膜炎が疑われる方は、
是非行ったほうが良い検査です。

データからみる検査の重要性
~ 正常細菌叢である確率は23% ~

EMMA/ALICE検査を実施された方々の結果から、検査の重要性を考えていきましょう。
下図は、検査会社であるIgenomix社のデータです。
上バ―が日本全国、下バーが当院を表しています。
EMMA/ALICE検査を初めて行った方で、子宮内細菌叢を正常細菌叢(理想的な状況)、
軽度異常、高度異常に分けた結果の割合を示しています。

当院の結果をみていきますと、
正常細菌叢、つまり子宮内細菌叢が理想的な状況である方は23.8%と非常に低く
残りの76.2%は細菌叢の異常を認めました。
細菌叢に異常があれば、妊娠率は低下する可能性がある背景となり、
細菌叢改善のための治療が推奨されます。
このように約3/4の女性で治療が必要となるため、
私見ですが、着床不全の原因検索としてまず行うべき検査として位置付けています。

不妊で悩む女性は、子宮内細菌叢の異常が見つかる可能性が非常に高い。
 必要な時期には検査を検討しましょう。

どんなタイミングで検査は推奨される?

着床不全の存在が疑われるのは、通常妊娠が成立しててもいい経過なのに上手くいかない場合となります。
胚の善し悪し以外に何か妊娠率を下げる要因が疑われる場合に検査が検討されます。

EMMA/ALICE検査は着床不全において重要な検査ではありますが、
細菌叢のみで妊娠結果が決まるわけではないですし、
胚移植する方全員がまず行うべきという検査ではありません。
保険ART診療においては、先進医療という位置づけにある検査です。

簡単に先進医療について説明しますと、
医学的根拠が高く、重要性が高い検査・治療と日本政府が認めれば保険診療となるわけですが、
先進医療とは保険診療に組み込むべきかを検討している段階の医療行為になります。
(税金を使ってまで行うべき検査なのかを検討している段階)

ある程度の確率で着床不全が疑われる時期に行ってくことになります。
学会が推奨するEMMA/ALICE検査の実施時期は下記になります。
・複数回の着床不全
・内膜炎を疑う所見、検査結果
つまり2回以上の胚移植で着床が成立しなかった場合や
その他検査で(子宮鏡や組織検査) 慢性子宮内膜炎を疑う場合に検討すべき検査となります。

当院でEMMA/ALICE検査を推奨する時期は、スケジュール・臨床成績を加味して
・子宮鏡検査で子宮内膜炎を示唆する所見がある
・1-2回の胚移植でうまく着床できなかった場合
としています。
当院の胚移植成績は全国平均よりも約20%高いため、
不遜な判断ではありますが、やや早めにEMMA/ALICE検査を推奨しています。
その他にも移植胚のグレード、年齢、残胚の状況、保険胚移植の残回数などを
加味して検査推奨時期を医師から提案させていただきます。

EMMA/ALICE検査後の流れ

検査結果により、子宮内細菌叢を改善するための治療の必要性、
必要であればどのような方法が最適なのかが分かります。
乳酸菌が減り、悪玉菌が増えてしまっている状態、つまり結果が不良な場合は
再検査が推奨される場合も多々あります。

細菌叢が好ましい状況になったら、胚移植を組むことが推奨されます。

EMMA/ALICE検査の実際のスケジュール、検査後の流れなどは別項にまとめさせていただきますので、併せてご覧になってください。

・EMMA/ALICE検査は着床不全に関する検査である
・当検査により子宮内細菌叢が判明し、妊娠率低下の原因が見つかることが多い
・検査推奨時期は、子宮鏡にて炎症所見が強い場合、もしくは1-2回の胚移植をで妊娠できなかった場合。