このページでは、最も基本的な不妊治療である“タイミング療法”についてまとめていきます。
この記事内における主な情報源は、自然妊娠を望む方に向けてASRM(アメリカ生殖医学会)が
76の論文報告を元にまとめた方針になります。
そのため、医学的根拠は非常に強い内容が記載してあります。(Fertil Steril_ 2017;107:52–8. )
- 好ましい性交渉の回数
- 性交渉の時期と妊娠率の関係
- 妊娠率と性交渉における雑学
1 妊娠しやすい性交渉の回数とは
性交渉の回数と妊娠率の関係を比較すると下記のようになりました。
1回 /日 : 妊娠率37%/周期
2回 /日 : 妊娠率33%/周期
1回 /週 : 妊娠率15%/周期
ただ、日本人は世界でもトップレベルに性交渉の回数が少ない人種です。
現実的にそこまでの回数は難しい人がほとんどではないでしょうか。
この論文でも効率を考え、2日毎をでもよいのではと提唱しています。
また、頑張りすぎるとタイミングをもつこと自体がストレスになり、
SEXにおける満足度が低下し(=妊娠率低下の可能性) 良くないので、
回数はカップルごとに無理のないように設定するとよいと提唱しています。
(New Engl J Med 1995;333:1517–21.)
2 どの時期に性交渉をもつことがよいのか
性交渉の時期と妊娠率の関係
下記は排卵日を中心にいつが妊娠しやすいかのグラフです。
(ASRM. Optimizing natural fertility. Fertil Steril 2016を参考に作成)
グラフをみますと、妊娠の可能性がある時期は排卵6日前から排卵日までとなります。特に、排卵日から3日以内に性交を行った場合に妊娠しやすい。
最も妊娠しやすい時期は排卵2日前であったとしています。
横軸:排卵日からの日数 (排卵日を0として)
縦軸:妊娠率 (%)
他の論文でも、排卵前日が最も妊娠しやすいとする報告や、排卵1.2日前が最も重要とする報告があります。
(New Engl J Med 1995;333:1517–21.)
3 妊娠率と性交渉における雑学
快感を得ると妊娠率は上がる?
性交渉後にしばらく仰向けになったり、腰を上げておいたほうが、精液の流出を妨げ妊娠率を上げるよいという話を聞いてことがあるかもしれませんが、
その説は、化学的には証明されていません。
子宮頸部に付着した精子は15分以内に卵管内に発見されると報告されています。
精子の動きとしては、下記の流れで遡上していきます。
膣内 → 子宮頚部(子宮の出口部分) → 子宮内腔 → 卵管 → 卵管末端で卵子と受精
精子の移動速度を考えますと、
射精されてから早々に頸管粘液内へ移動し始めると思われますので、
膣内に精液をずっとおいておく必要はないと推測されます。
卵管内の精子移動については、精子自身の移動だけではなく、
卵管自体に精子輸送を助ける機能があるとされています。
卵管の精子輸送機能は ①卵胞の発育状況、②オキシトシンの分泌により影響をうけます。
卵胞の発育側かつサイズが大きい方が輸送される精子数が多くなりますので、排卵間際に、
排卵側に精子輸送が加速するという理にかなった機構をもっているわけです。
また、②のオキシトシンは、脳下垂体から分泌されるホルモンで、“幸福感”をもたらしたり、ストレス軽減や様々な効果があるといわれています。オキシトシンは性的興奮が高まったり、性交渉時に満足感やオーガズムを感じることで分泌が増加します。このホルモンも精子輸送を加速させると報告されており、また男性において精液量を増やすという報告もあるので、二人が満足のいくSEXをすることが大事と思われます。
体位による妊娠率の変化は不明です。
射精後数秒後には子宮頚管内に精子が確認されますので、恐らく体位により妊娠率は変わらないであろうと推測されます。
妊娠率と性交渉における雑学
潤滑剤について
膣潤滑剤は、種類によっては精子に悪影響を及ぼすものもあります。
精子運動性を下げる可能性がある潤滑剤 : 水溶性潤滑剤、オリーブオイル
問題ない潤滑剤 : キャノーラ油、ミネラルオイル、ヒドロキシエチルセルロースベースの潤滑剤