・X線の高度被曝は胎児への影響が懸念される。
・被曝と胎児への影響において、被曝時期と線量が重要である。
・注意が必要な時期は、月経開始予想日の少し前からである。
・50mGy未満の被曝であれば、胎児への影響はほぼないと考えられている。
X線検査をする際に、妊娠中ではないことを問診で記載したことがあるのではないでしょうか。
妊娠している場合、放射線量によっては胎児への影響を懸念しなければいけません。
ただ、検査で使われる放射線量は通常50mGy未満であり、特殊な場合を除き、
胎児への影響は小さい(ほとんどない)と考えられています。
妊娠に気付かず検査を受けてしまったとしても、ほとんどの場合は問題にはなりません。
胎児への影響は被曝時期と被曝線量により規定されます。
この項では、放射線と胎児への影響について説明していきます。
※この項は産婦人科診療ガイドライン 産科編を参照しています。
放射線検査を注意すべき時期
まずはどの時期が危険性が高いのかについて説明していきます。
月経周期が28日と仮定して下記の説明をします。
月経14日目=妊娠2週0日=排卵日
月経19日目=妊娠2週5日=受精卵が子宮に着床する時期
月経28日目=妊娠4週0日=月経開始予測日 もしくは 妊娠反応検査が陽性にでる時期
放射線に対して安全な時期としては、
月経開始~妊娠3週2日(≒月経開始予想日の5日前)までと考えられます。
その時期であれば、妊娠、胎児への影響を懸念して検査をためらう必要はないと考えられます。
細かくいえば、月経日から排卵前の時期の方がより安全であると考えられますが、
詳細は割愛します。
胎児への影響としては、高容量の放射線をあびた時期により、表出され方が変わります。
妊娠3週3日(≒月経開始予想日の4日前)以降~妊娠10週、つまり妊娠初期の放射線曝露は胎児奇形発生率上昇に関与します。 器官形成が活発に行われている時期なので、細胞分裂にエラーが起こり臓器の奇形などが起こりやすくなります。
逆に、妊娠10週以降は器官形成が終了する時期なので、放射線による奇形発生は懸念しなくて良い時期に入ります。
しかし、妊娠26週頃までは、放射線被爆により脳への影響は起こりうるので、精神発達地帯、知能低下などを起こす可能性があります。
注意すべき放射線量とは
普段の生活においても、宇宙、大地、空気、食べものなどから常に微量の放射線を浴びていることはご存じの方も多いと思います。 微量であれば、健康に害は及ぼさず、また胎児への影響もないわけです。
それでは、どの程度の線量になると胎児にとって危険となるのでしょうか。
いくつか論文報告をみていきましょう。
・100mGy以上の被曝により奇形発生率が上昇する可能性がある。
また、胎児知能低下を及ぼす閾値は100mGy程度と推測される。 (Strffer C. Ann ICPR 2003 )
・100~500mGyの被曝でも奇形発生率は上昇しないとする報告もある。 (De Santis. Reprod Toxicol 2005)
・重症精神発達遅滞は500mGy以上の被曝で起こり、その程度は線量依存性である。 (Milluer RW.Teratology 1999)
それでは、放射線検査においてどの程度の被爆が生じるのでしょうか。
主な検査と、胎児被ばく量の平均量(青列)と最大量(オレンジ列)を示します。
最大量で見積もったとしても、腹部(or骨盤)をfocusとしたCT検査以外は、
問題にならない線量であることが分かると思います。
これらの検査後に妊娠が発覚しても、胎児への影響を強く心配する必要はないと考えられます。
しかし、おそらく問題が起こらなそうだからといって、全ての検査を最大限受けたほうがよい
というわけではありませんので、健診のメリットと胎児へのリスクを天秤にかけて、
ご自身の価値観で判断することになります。
小線量検査でも心配する気持ちが強ければやらなければ良いと思います。
高線量検査は、ご自身の身体を守るために必要な場合のみに限るべきと考えます。
その場合は、腹部を防護して被曝量を軽減して実施するのも一案です。
担当医師や検査技師さんと相談しつつ、検査・健診を行ってください。