本項のまとめ
・ピルの使用目的、副作用(血栓症)について
・ピル服用の際に、併用注意な薬品:抗てんかん薬、抗結核薬、三環系抗うつ薬
・血栓症予防方法
・血栓症リスクが高く、ピル内服を中止した方がよい方:該当しないか必ずご確認下さい。
ピルとは
ピルは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)という、
2種類の女性ホルモンが含まれた薬剤の総称です。
一般的に月経調整、避妊、月経困難症などのために用いられます。
当院では主に月経周期の調整として使用します。
通常であればピルを数日間使用した場合、
服用終了後2日から1週間程度で月経様の出血が起こります。
出血量は通常の月経量よりも少ないことが多いです。
稀に出血しないこともあり、ピル服用終了して2週間経過しても生理にならない場合は、
診察時もしくは電話にてお申し出ください。
本項の情報は、日本産科婦人科学会監修のOC・LEPガイドラインの情報を掲載しております。
(OC・LEP=ピル)
ピルの種類
ピルには多くの種類がありますが、主に卵胞ホルモンの配合量により、
下記の様に分類されます。
・中用量ピル(当院では主にプラノバール)
・低用量ピル
・超低用量ピル(当院では主にフリウェルULD)
中用量ピルなど、含有ホルモン量が多ければ効果が強くなりますが、
一方で副作用も強く出る可能性があります。
当院では患者様の状態に合わせて処方選択をします。
これまでに、ピルを服用して副作用を経験されたことがある場合はお申し出ください。

併用に注意を要する薬剤
下記の薬剤を使用している方は、ピルを使用するにあたり注意が必要ですので、
該当する場合は医師へお申し出ください。
①抗てんかん薬 :肝酵素(CYP3A4)を誘導する作用を持つため、
ピルの代謝を促進し、効果が減弱する可能性があります。
②抗結核薬(リファンピシン、リファブチン):
上記同様、肝酵素(CYP3A4)を誘導する作用を持つため、
ピルの代謝を促進し、効果が減弱する可能性があります。
③三環系抗うつ薬: ピルはCYP450酵素を阻害する作用を持つため、
三環系抗うつ薬の血中濃度を上昇させることがあります。
これにより、抗うつ薬の副作用(口渇、便秘、眠気、めまい等)
が強く出る可能性があります。
ピル使用により起こりうる副作用
<比較的頻度が高い症状>
頭痛、悪心・嘔吐、不正性器出血、乳房緊満感 など
これらは、のみ始めに症状が出現することが多く、慣れてくると次第に落ち着いてくることが多いですが、症状が強い、長期間続く場合や日常生活に支障をきたす場合はご相談ください。
<重篤な副作用>
血栓症
ピルを服用することにより、血栓症(血液が固まって血管に詰まる病気)を引き起こす確率が若干上昇するという報告があります。
血栓症とは、血管内で血液中成分が一部固まってしまう(血栓を形成)病気です。
血栓は血管内を流れ、どこかの血管内で詰まり血流を阻害し臓器機能不全を引き起こす(塞栓症)を誘発する恐れがあります。
血栓・塞栓症は、重大な合併症起こしたり、時に命に関わることもあるため、
ピル使用における一番の注意点といえるでしょう。
それでは血栓症を起こす頻度は、ピルを使用することでどの程度上がってしまうかみていきましょう。
下記は日本産科婦人科学会が報告した有名なデータを元に作成した図になります。
通常(ピル使用無の状態)、ピル使用中、妊娠中、産直後での血栓症発生頻度を比較したものです。
この頻度は、10000人を1年間観察した場合での発生頻度になります。

まず、左上のピルを服用していない方でも血栓症は極々わずかに発症してしまうことがわかります。
右上のピルを服用することでその頻度はやや上昇しますが、この程度は下段の妊娠中や、産直後と比べて低いこともまたわかっていただけるかと思います。
妊娠中は女性ホルモンが上昇し、お腹も大きくなることで、
産直後は授乳や睡眠不足など様々な要因で、血栓症リスクが上がってしまいます。
ピルはそれらの状況よりは安全という報告になります。
ピル服用により血栓症リスクは軽微に上昇するが、その頻度は妊娠中よりも低い。
このように、ピル服用による血栓症発生リスクは軽微であるため、
過度に心配をする必要はありませんが、
ある種の基礎疾患のある方や、その他血栓症リスクをお持ちの場合は
服用しない方がよいことがあります。
これら血栓症リスクとなりうる基礎疾患やその他リスクについては後述いたします。
血栓予防のために避けた方がよい行動
行動は血栓症リスクを高めるため、ピル服用期間は特に行わないよう注意しましょう。
・長時間の同じ姿勢による不動状態
長時間の移動(飛行機、自動車、列車、船舶など)は避けるか、
避けられない場合は、休息をとったり、飛行機内では足をよく動かすよう努めましょう。
・脱水状態
血液中の水分が不足すると血栓症発生を助長するため、ピル服用中は
こまめな水分摂取を心がけましょう。
・喫煙
喫煙は血栓症リスクをさらに上げる要因となります。
副流煙も同様にリスクとなります。
男女ともに少なくとも不妊治療中は禁煙しましょう。
血栓症を疑う症状
血栓症を疑う症状としては下記のような症状があります。
・激しい腹痛
・激しい胸痛、息苦しさ
・突然の激しい頭痛、持続性の頭痛(片頭痛)
・見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、けいれん、意識障害
・片側または両側の下肢(特にふくらはぎ)の痛みと浮腫み
血栓症発症はごく稀ではありますが、万が一発症した場合は早急に、
適切な治療を行う必要があります。
これらの症状が出現した場合には服用中止ならびに、救急外来受診の検討が必要です。
直ちに救急対応可能な医療機関などに連絡のうえ指示があれば受診してください。
ピル服用による危険性が高い方
下記にあてはまる場合はピルによる血栓症リスクが高いと予想される、危険性が高い方々になります。
基本的にピル服用は控えたほうがよいと考えられますので、
当てはまる方は必ずお申し出ください。
・ピル服用によるアレルギー症状の既往
・喫煙者(特に35歳以上で1日15本以上)
・血管病変を伴う糖尿病
・重症の高血圧症
・高齢、喫煙、糖尿病、高血圧を伴う脂質代謝異常症
・妊娠中、妊娠している可能性がある
・授乳中、断乳済の場合は産後4週間以内
・大きな手術前4週間以内、術後2週間以内および長期の安静状態
・肺高血圧症や心房細動を合併する心臓弁膜症、亜急性細菌性心内膜炎の既往のある
・重篤な肝障害、肝腫瘍
・乳癌患者
・血栓性素因(深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患、抗凝固療法中など)
・抗リン脂質抗体症候群
・原因不明の異常性器出血
・妊娠中に黄疸、持続性掻痒症または妊娠ヘルペスの既往
・前兆※を伴う片頭痛
片頭痛における前兆とは
片頭痛は虚血性脳卒中のリスク因子であり、ピルを使用することでそのリスクはさらに上がると考えられます。片頭痛に前兆を伴う場合は、そのリスクがさらに上がる可能性が示唆されていますのでピルは中止しましょう。
~ 主な前兆 ~
視覚症状:閃輝暗点、視野欠損、視界の歪み、光過敏 など
感覚症状:しびれやチクチク感、感覚麻痺、熱感や冷感 など
言語症状:言葉がうまく出てこない、言い間違え、人の言葉が分かりづらい など
ピル服用による危険性がややある方
上記の他、下記に当てはまる場合は、服用にあたり慎重を要することが求められます。
絶対に中止したほうがよいとまでは言い切れませんが、ピル服用によるメリットが高くなければ
使用中止も考慮した方が良い方々です。
これらに該当する場合も、医師へご報告下さい。
・40歳以上
・肥満(BMI30以上)
・喫煙者
・軽症の高血圧症、高血圧既往
・血管病変を伴わない糖尿病または耐糖能異常
・危険因子(高齢、喫煙、糖尿病、高血圧など)を伴わない脂質代謝異常
・心臓弁膜症、心疾患
・肝障害、胆石症
・前兆を伴わない片頭痛
・乳癌既往、家族歴
・血栓症の家族歴、表在性血栓性静脈炎
・子宮頸部上皮内腫瘍、子宮頸癌
・ポルフィリン症
・テタニー
・てんかん
・腎疾患、その既往
・炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)
ピルの服用方法、飲み忘れ時の対応方法
服用方法
医師が指示した日(もしくは月経初旬)から、1日1回 同じ時間帯に服用してください。
服用を忘れてしまった場合は、ピルの種類(プラノバールorフリウェル)により対応が
変わりますので、下記文章をお読み下さい。
服用を忘れた場合 (フリウェルULDの場合)
① 1錠の服用忘れに気づいた場合
→飲み忘れた錠剤をなるべく早く服用し、残りの錠剤は予定通り服用してください。
=結果として一日2錠服用する日がでることになります。
② 2錠(2日分) 以上の服用忘れに気づいた場合
→飲み忘れた錠剤のうち直近のものをなるべく早く服用し、
残りの錠剤を予定通り服用してください。
=結果として一日2錠服用する日がでて、かつ服用終了が1日遅くなります。
③ それ以上の長期間服用を忘れた場合はクリニックへご相談下さい。
服用を忘れた場合 (プラノバールの場合)
① 1錠の服用忘れに気づいた場合
→飲み忘れた錠剤をなるべく早く服用し、次はそこから約24時間毎に残りの錠剤を
のみ切ってください。
=昨夜分の飲み忘れtに翌朝気づいたら、その時点で1錠のむ。
以降は朝1錠/日ペースで継続する。
② 2錠(2日分) 以上の服用忘れに気づいた場合
クリニックへご相談下さい。
