不妊症に対するPQQの可能性 (女性)

妊娠率を高める可能性がある新たなサプリメントとして、
PQQ(プロロキノリンキノン)が注目されています。
このページでは、不妊治療に対してPQQがどのような根拠で勧められるのか、
どのような場合に摂取をすべきかについてまとめていきます。

PQQとは

• 納豆、豆腐、キウイ、ピーマン、パセリ、緑茶などの食品に含まれるが、食事から摂取できる量は限られるため、摂取するためにはサプリメントが一般的である

・論文報告として、
PQQ摂取により、ミトコンドリア機能改善によるエネルギー代謝改善、
抗酸化作用、その他にも認知機能向上など様々な健康効果が報告されています。
下記に医学論文の一部を列挙します。

抗酸化作用　　　　　　　　　1．Karen R,Biomolecules 2021.　　　　2．Melissa Mitri, Nutrition 2024.
ミトコンドリア機能改善　　　1．Nalbant MA, Cell Mol Biol 2023.  　2． Jonscher KR, Biomolecules 2021.
認知機能向上　　　　　　　　1．Melissa Mitri, Nutrition 2024.
心血管系イベントリスク改善　1．Michael T, Neurology 2016 .

このように様々な効果が報告されているPQQですが、
この中で不妊症改善に関わる項目としては
主に、抗酸化作用、そしてミトコンドリア機能改善が関わるのではと予想します。
次の項で、不妊治療に併用するべき根拠となるデータを供覧します。

PQQによる妊娠率向上の医学的データ

PQQはまだ新しい栄養素であり、ヒトに対してのデータはほとんどありません。
ただ、動物での研究としては妊娠率をあげるデータが出てきています。
この項でご紹介するデータは、
広島大学・大学院統合生命科学研究科・生殖生物学研究室データをお借りして供覧しています。
当該研究室は、生殖医療分野において非常に先進的な研究を行ってらっしゃることで有名です。
私も学会等では医学発表をよく拝聴していて注目させていただいていました。
他施設が未着手の分野をどんどんと切り開いて、臨床にも活かせる新しい発明を多数報告してらっしゃる研究室です。

報告①　若いマウスにPQQ＋排卵誘発剤を投与し、経時的に卵子周囲細胞を採取し解析を行った。

PQQ無しはC群(黒バー)　と比較して、PQQ添加群(赤バ―)は　
　左　：卵子周囲細胞のROS(活性酸素)が低下した。　
　　　　　→妊娠率を下げる因子であるROS(活性酸素)が卵子周囲で低下した。
　中・右　：ミトコンドリア活性、ATP濃度上昇　卵子周囲の細胞が活発性が向上した。
　　　　　→エネルギー産生を司るミトコンドリアの活性が卵子周囲で向上した。

報告②　若いマウスにPQQ＋排卵誘発剤を投与し、経時的に卵巣を回収し解析を行った。

PQQ無しのC群と比較して、PQQ添加群は　
排卵誘発刺激による成熟卵胞数が増加した。
　　　→発育卵胞数を増やすことができた。

報告③　若いマウスにPQQ＋排卵誘発剤を投与した後に、体内受精の結果を解析した。

PQQ無しのC群と比較して、PQQ添加群での体内受精結果は　
・排卵数増加、受精卵数増加、凍結胚盤胞数の増加がみられた。
　　　→卵胞数が増えるだけでなく、良好胚の個数も増やすことができた。

報告④　高齢マウスにPQQを一定期間投与し、回収した卵巣を解析した。

PQQ無しのC群と比較して、PQQ添加群の卵巣は　
・卵巣内の酸化ストレスが軽減した。(左図)
・卵巣内の老化所見(線維化、卵胞委縮)が改善した。(右図)
　　→ヒトでも同様であるが、加齢により卵巣には線維化、卵胞数低下/委縮がみられる。
　　　PQQによりその加齢変化が改善した。
（高齢マウスと記載しているが、実際は加齢状態になるような遺伝子操作を行った加齢モデルマウスを研究では使用されている。
　閲覧者が理解しやすいよう高齢マウスと記載しています。）

報告⑤　高齢マウスの産子数(1固体当たり)

PQQ無しのKO群と比較して、PQQ添加群では、
・妊娠できる確率が上昇した。(左図)　1/3(33%)　→　3/3(100%)へ
・1固体当たりの産子数が倍増した。(右図)

PQQと不妊治療への応用

前述のように基礎研究において、PQQは不妊症に対しての好影響を期待せずにはいられない結果が出ています。
抗酸化作用においては、既知のＣoQ10と同等以上の結果がみられており、
またミトコンドリア機能向上含め、その他の効能も期待できます。
実際に研究における妊娠率は、発育卵胞数、排卵数、受精卵数、胚盤胞数、妊娠数と
PQQ投与により大きく上がる結果が出ています。

私の前任地は、早発卵巣不全(POI)治療において全国的に有名な施設であったため、全国から患者さんがいらしていました。
POIは、顕著な卵巣機能低下が主な病態であり、女性不妊症の中で最も治療が難しい疾患です。
POIの基礎研究、臨床研究にも携わらせていただいた中で、数百名の患者さまの卵巣を摘出し、
解析する機会がありました。
その中で最もショッキングだった経験としては、卵巣機能が低下した女性の卵巣は、非常に硬く委縮してしまい、顕微鏡で確認すると残存卵胞がほとんどないこと、線維化し正常細胞が激減し線維化してしまっていることでした。
分かりずらいと思いますが、本来あるべき卵胞が姿を消し、血管も減り、本来みられない線維組織が卵巣内のほとんどを占めてしまっていました。
これでは、卵胞はうまく発育しないであろうと容易に推測できる鏡像でした。
PQQの研究結果で非常に興味深かったのは、上述のような線維化した卵巣が、きれいな若々しい卵巣に戻る様がみられた点でした。
これは、自施設で不妊治療を行っている方々にも福音がもたらされる可能性が高いと考え
このように推奨するに至ったわけであります。

上述の研究結果をふまえますと、不妊症で悩む方は使っておいて損はないと考えますが、
特にどのような女性に推奨されるかをまとめますと、
① 卵巣機能低下を指摘された方
② 高齢な方　
③ ART治療において、培養結果が不良であった方
このような方には特にお勧めであるかと考えます。
①に関しては、発育卵胞数を増やす可能性があります。
別項で述べていますが、卵巣機能は残存原始卵胞数ですので、卵巣機能を元に戻したり、上げたりする効果は理論上ないと考えます。
重要なのは、報告②で１次卵胞、２次卵胞数は増えなかったので、
PQQ投与により、逆に原始卵胞を無闇に発育させてしまい、
卵巣機能の枯渇をもたらす作用はないと考えられること、
卵胞周囲環境の改善により発育卵胞数を増やす作用があると予想されること、
この２点であると考えます。
ここは読んでも理解が難しいと思いますが、不妊で悩む女性にとって、
不利な点がなさそうで、良い効果のみがあると予想されることを理解してもらえれば幸いです。