百日咳とは、Bordetella pertussisという細菌による急性呼吸器感染症で、
感染力が強く(広がりやすい)、乳幼児が重症化しやすく、激しい咳発作が特徴です。
百日咳は感染症法上の 5 類感染症にあたり、
2024年以降患者数、特に乳児における重症例が増加し問題となっています。
日本では、産後2か月以降に百日咳に対抗するためのワクチン(主に3種混合ワクチン)を接種するため、以降は感染率や重症化率が低下します。
ワクチン接種前の時期=出産から産後2か月ころの期間は、百日咳感染の好発年齢であり、また重症化しやすい時期であり注意が必要です。
この出産直後の時期は、母親から経胎盤(妊娠中)的に抗体をもらうことがで感染予防をすること
が期待できますが、母親のもつ百日咳抗体が少なければ、感染が成立しやすくなります。

百日咳に対するワクチン接種の現状
日本では、乳児への百日咳含有ワクチンの定期接種が生後2か月以降に実施されています。
接種後数年から10年前後で抗体は減弱すると考えられており、
下記の時期に接種をすることが推奨されています。
① 乳児期に数回 (定期数回・公費) 混合ワクチン ほぼ全員
② 就学前(任意・私費) 混合ワクチン 希望者のみのため極少数
③ 学童期(任意・私費) 混合ワクチン 希望者のみのため極少数
④ 成人期(任意・私費) 成人用混合ワクチンが未認可のため①~③と同様の混合ワクチン
希望者のみのため極少数
百日咳感染で重症化しやすいのは乳児期のため、
①のみ公費負担となっており通常しっかりとワクチン接種を行います。
②③の時期は、抗体価が下がる時期のため小児科学会は接種を推奨していますが、
補助がないため多くの場合は行われていないのが現状です。
④も同様です。
つまり、多くの日本人は①の時期しかワクチンをうっていません。
一方海外では、ワクチン接種前の乳児への感染例が多いこと、またその重症化が問題となるため、
妊娠後期の妊婦に百日咳含有ワクチン(成人用混合ワクチン)を接種することで
母体から乳児への移行抗体を増加させ、乳児の重症化を防ぐいわゆる「母子免疫ワクチン」
が推奨されています。
しかし現在、日本では百日咳含有ワクチン(成人用混合ワクチン)は認可・販売されていないため、
「母子免疫ワクチン」が広まっていません。
百日咳は数年ごとに流行が発生しますが、その背景としては、
日本のワクチン接種が少ないことが関与していると考えられ、
また乳児重症化を防ぐための「母子免疫ワクチン」も広がっていないため
不幸な転帰をたどってしまう方が増えてしまっているというのが現状のようです。
百日咳流行期にどのような対応をすべきか
上述のように、多くの成人日本人は抗体が少ないと自覚した方がよいわけですが、
それでは流行時期にどうしたらよいのか、妊娠中の場合は乳児を守るためにどうすればよいのか
について考察していきます。
日本には成人用百日咳含有ワクチン(成人用混合ワクチン)は認可・販売されていませんが、
小児用混合ワクチンとの違いは、標的とする病原菌の抗原量が違うことのようですので、
基本的に成人に小児用を接種しても問題はないと考えられています。
近年の厚生労働省の研究によると、妊婦への小児用混合ワクチン接種の安全性と乳児への百日咳に対する抗体移行が確認されています。(厚生労働行政推進調査・予防接種政策推進研究事業 参考)
ただし現時点では、これによる乳児百日咳の重症化予防効果は証明されていません。(調査されていないという意味)
1.小児用混合ワクチンでも妊婦への摂取により乳児への抗体移行は確認されており、おそらく乳児重症化予防にも効果があるとは予想されます。現在妊娠中で、百日咳の流行がある場合は、母親であるご自身が対応施設で私費でワクチン接種をすることが選択肢としてあげられます。
2.兄弟がいる場合、そこから家庭内で感染が広がることが往々としてありますので、
お子様に対してワクチン接種を行っておくというのも、有効な対策になりえると考えます。
